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  • 執筆者の写真Kokoro

『Le vent de hope-風が届ける明日への詩-』 Ange Vierge if episode finale“Miumi” 第5章

更新日:4月9日

前書き


Kokoroです。ようやく、私の書きたかったものが形になったのです…。ここまで本当に長く、みなさんに応援していただかなければ、もしかしたら、もう投げ出していたかもしれないのです。

今回が「Le vent hope」の最終章、及びエピローグになるのです。自分なりにアンジュさんの最終章を作ってみたいと思った2018年4月から早半年、本当に長かったのです…。

アプリさんの新章「護世界の少女編」の今後がどういったお話になるかはわからないのですが、最後の場面、※1のところでは「Tears BLEAKER」、※2では「HARMONIZE」の2曲をイメージした描写になっているのです。ぜひ、これらを聞きながら見ていただけたら、と思うのです。

…さて、では、はじまりはじまり、なのです~♪


第5章「涙を断ち切るために」

ーーーーーー。

周りが、暗い。

ここは、どこなんだろう。

私は、誰だろう。

…なんか、嫌な感じかな。

自分が何者なのかわからないのも。

ここがどこなのかわからないのも。

…何か、大切なものがあった気がする。

でも、思い出せない。

思い出そうとすると、その分、虚無がそう思う気持ちを埋めていく。

思い出したくない?

なら、無理に思い出す必要はないよね。


…でも、それでいいのかな。

わからないままで、いいのかな。



(another viewing“Taiga”)

「ーーーくそっ…!!」

誰もいなくなった集中治療室の中で、僕は唇を噛み締めて、壁を思いきり殴り付けた。

今、青蘭学園のプログレスとαドライバーは、そのすべてがウロボロスを迎え撃つために出払っている。

僕だけが、ここにいる。

みんなが戦っているというのに。

せめて誰かとリンクをとも言ったのだが、ソフィーナたちからはこう言われた。

「ーーー美海の側にいてあげて。それができるのはあなただけよ。」


…ありがたさと悔しさがごっちゃになって、僕の心を曇らせていく。

確かに今の僕では、きっとリンクを繋いだところで、まともにプログレスの力にはなってあげられない。それに彼女たちには、僕の他にも絆を紡いだアルドラはちゃんといる。今、この場で暗くなっている僕より、はるかに彼女たちの力になってくれるはずだけどーーー

…何が最高のαドライバーだ。

こんな肝心なときに、僕は戦力外通告を受けてるじゃないか。

…もちろん、みんながそんな意味を込めて僕にそう言ったわけじゃないことはわかってい る。だが、今の僕はそう思わずにはいられなかった。


傍らには、美海が横たえられている。


…そういえば、美海は僕としかリンクを繋いだことはなかった。

僕以外のアルドラだってたくさんいたはずだし、いつかの天羽君のように特定の誰かとしかリンクできないなんてことはなかったはずだけど、それでも、最初から、恋人になる前、友達になったその時から僕の側にいてくれた。

その彼女は、今、傍らのベッドで深い眠りについている。

僕は、美海の手を握りしめる。

柔らかさや温かさをしっかりと思い浮かべることができるくらい、幾度となく繋いだその手。

…僕は、やっぱり美海がいないとだめなんだな。

そう思えてきた瞬間、頬を伝う涙がぽたりと僕の手に落ちて、僕の手を通して、美海の手へと伝っていく。

傍らのモニターを見ると、暗雲を湛えた漆黒の暴風が、とめどなくウロボロスを吐き出し続けている。

美海。

僕はここだよ。ここにいるよ。

ウロボロスの意識なんかに負けちゃダメだ。

世界を壊す特異点なんかになっちゃダメだ。

この世界が壊れてしまったら。

そうしたら、もうみんなに会えないんだよ。

友達は一生の財産って、ずっと言ってたじゃないか。

遊びにもいけなくなっちゃうし、君の大好きなクレープを食べることも、漫画を読むことだってできなくなっちゃうんだよ?

…そりゃ、嫌いだって言って僕にいつも渡してきてたピーマンやしいたけを見ることも、勉強しなきゃいけないなんてこともなくなるけどさ。

でも、それでも君は、みんなと一緒にいたいとずっと言ってたよね。

そのために、僕たちは頑張ってきたんでしょ?

勉強だって。

ブルーミングバトルだって。

第二風紀委員の手伝いだって。

生徒会長と風紀委員長になってからの仕事だって。


…僕は、きっと美海に届くと信じて、そう繰り返すしかなかった。

そうしている間にも、画面がひっきりなしに切り替わる。その時、ある映像を通して、漆黒の暴風へと向かっていく数人のプログレスが映し出された。


沙織。

ソフィーナ。

アウロラ。

セニア。

マユカ。

青蘭学園に来てから、あるいは学園生活を通して、美海や僕が各世界出身のプログレスの中で、一番最初に友達になったプログレスたちだった。


ーーー何かが、私に向かってやってくる。

それは、女の子たち。

みんな見覚えがある。でも、それが誰なのか、思い出せない。

思い出す前に、さっきと同じように、黒い雲が私の記憶を塗りつぶしていく。


これも、思い出さなくてもいいものだよ。


そう聞こえた気がした。

そっか、思い出さなくてもいいものなんだ。

じゃあ、無理に思い出す必要はない。

…それでいいのだろうか。

…ううん、そんなこと考えていてはいけない。

必要がないなら、必要がないのだ。

…また、声が聞こえる。


あれは邪魔だよ。

目の前のものは、みんな邪魔者。

なら、吹き飛ばしちゃおうよ。

どうせ壊れるだけだけど、なら、今壊しちゃってもいいよね。

そっか、邪魔なんだ。

なら、いいや。

ーーーでも、本当に、いいのかな。



(another viewing“Aurora ”)

私の絶対守護の防壁を盾にして、私を含めた五人のプログレスが、黒い渦の中心へと一直線に突っ込んでいく。

先ほど、私は沙織さんやソフィーナさん、それからマユカさんに、セニアさんはユフィさんから、おおよその事の顛末を聞いていた。

ユフィさんが言っていた、時空に楔のように打ち込まれ、その先の未来をすべて一本化するものーーー特異点。美海さんは、どこかの時点でその特異点と化し、この世界を壊す役割を担ってしまったのではないか、というユフィさんのそんな仮説を証明せざるを得ないものが、今、目の前にある。

黒い雲を纏う暴風は、未だウロボロスをとめどなく吐き出し、私たちの侵入を阻むように、絶え間なく空気の層を切り裂いている。ウロボロスの有象無象は、ここにくる前に構築した学園を覆う防壁はあるものの、相手が相手だけに、役に立ったとしても本当の最終手段。なんとか学園のみなさんが、できる限りウロボロスを食い止めてくれることを祈るしかない。

ーーー私たちは、最悪の場合、あの美海さんを相手にしなくてはならない。

最強のプログレス。

そして、かけがえのない仲間である彼女に対して、私たちは剣を向けなければならない。

この場にいる全員が、私と同じ思いだろう。


「ーーー美海ちゃん、聞こえているならもうやめて…!!」


沙織さんが、美海さんに向かって呼びかける。それに続くように、

「ーーー美海、あなた、自分がしようとしてること、わかってるんでしょうね!?」

「ーーーこのままでは、美海さん、あなたは私たちとーーーひいてはマスターと暮らした、この世界の思い出のすべてを、自分のせいで失ってしまうことになるのですよ…!!」


「ーーー人が傷つくのは嫌だ、って、ずっと仰っていたのにーーーなのに、どうしてこんなことに…どうしてですか、美海さん!!」


沙織さんが。

ソフィーナさんが。

セニアさんが。

マユカさんが。

口々に、聞こえているかどうかもわからない自分の思いを、美海さんへと届けるために声を上げる。

だが、漆黒の風はその声をせせら笑うかのように、さらに大きな咆哮を轟かせながら吹き荒れる。瞬間、黒い暴風を押し退けるようにして現れたウロボロスの一団が、一番近いところにいる、無防備なマユカさんに向かって襲いかかった。

「ーーーーーーマユカさん!!」

間一髪間に滑り込んだ沙織さんが、ウロボロスに向かって両手を広げた瞬間、ウロボロスの爪や拳、そして武器が、その手から発される光の防壁にぶつかり、鋭い音を響かせて弾かれる。すかさずセニアさんが、遠隔操作できる背面ユニットを分離して攪乱し、ある程度まとまったところで、ソフィーナさんが巨大な炎を放った。その射線上にいたウロボロスはその灼熱の炎に焼かれ、その逆方向に逃げたものは、体制を立て直し、「グリム・フォーゲル」を長大な砲撃形態「グリム・シュトルム」に換えたマユカさんの放った緑色の閃光によって、次々と吹き飛ばされていく。だが、今のウロボロスはおそらく、私たちの気を反らすためだったのだろう。本命というべき黒い暴風が、私たちに一気に襲いかかった。

「ーーー!!みなさん、私の周りに集まって!!」

私の声を聞いて集まった瞬間、私は絶対守護の力を全開にして、なんとかその一撃を弾き反らす。だがーーー風の余波は私の絶対守護を突き抜けて、鎌鼬のように私たちを襲った。

「きゃあっ!!」

「く…うぅっ…!」

「う…あぁぁっ…!」

「う…うぅぅっ…!」

いけないーーー!!

自分も風のなかで煽られながら、私は各々で声を上げるみなさんを確認しようとした瞬間、凄まじい轟音を轟かせて吹き荒れた黒の暴風が、私たちをまとめて吹き飛ばし、私たちはなんとか体制を立て直す。…だが。


「ーーーリンクが、切れたーーー」


当然だろう。あの風を受けて、無事でいられるアルドラがいる方がどうかしている。他のみなさんも同じようだった。


ーーーもう、だめのようね。


私は決めた。

暴風の中心に向かって、私は目に涙を浮かべながら声を上げる。


「ーーー美海さん、私は、あなたを何としてでも止めるわ。

たとえ、それがあなたの命を奪うことになることであろうとも。

あなたの命と引き換えに、私自身が命を奪われようともーーー!!」


…不安をかき消し、己を奮い立たせるように、私は言葉を紡ぐ。

私は、赤の世界の七女神の頂点であり、赤の世界の世界水晶そのもの。

美海さん、それがわかった時にも、あなたは私を友と呼んでくれたわね。

私には、七女神として、世界水晶の一角として、この世界を守る義務がある。

ーーーそして、あなたに友と呼んでもらったものとして、世界を脅かしているあなたを止める義務がある。

あなたの力は強い。私の絶対守護ですら、あなたの前ではどれだけ役に立つかはわからない。

ーーーでも、それでも、私はあなたを止める。

たとえ、リンクしてくれるアルドラがいなくとも。

たとえ、この身を引き換えにしても。

そして、その結果、あなたの命を奪うことになったとしてもーーー

「…もう、アウロラ、あなた、何を言っているのよ?」


ソフィーナさんが、はっとした顔をする私に言う。

「そんなの、ここにいる全員がわかってるわ。一人だけで抱え込むのは、目の前のあの子だけで十分よ。

どうせ、この子を止められなければ、あたしたちの世界はそれで終わる。それが嫌なら、あたしたちはここに生きる者として、あなたのように最後まで足掻く義務がある。違うかしら?」

ソフィーナさんの言葉に力強く頷く沙織さんたち。


「…美海ちゃんは、引っ込み思案だった私に声をかけてくれて、お友達になりたいって言ってくれて、私が美海ちゃんの守護者(キーパー)になって、オルタネイトの訓練をした時も、私を信じて合わせてくれた、そんな優しい子ですから。一緒にテスト勉強もして、お買い物をしたり、遊びに行ったり…そんな明るい子ですから。」


「…沙織のいう通りかもしれないわね。あの子、最初は正直鬱陶しかったけれど、その溢れんばかりの鬱陶しさがなければ、そもそもあの子じゃないわ。大河とののろけも含めて、ね。」

「はい、マスターと美海さんの仲は、みなさんも知るところです。私も、恋というものはどんなものなのか、最初はわからなかったけれど、お二人を見ていたら、どんなもの、という言葉ではとても測れなくて…でも、尊いものであることはわかったんです。

それだけじゃありません。何も知らなかった私に、たくさんのことを教えてくれました。私は、それがとても嬉しかったのですから。」

「…私も、緑の世界から来たばかりの頃、たくさんお世話になって、最初のお友だちになってくださって、おにぎり、おいしいって言ってくださって…。みなさんほど長い時間じゃないかもしれないけれど、美海さんが私たちの敵になること…。怖いけど、でも、そうしなければ、この世界が壊れたら、その思い出すらなくなっちゃいます…悔しいけれど…私も、心を決めました。みなさんと戦って、一緒に世界を救いたい。

たとえ、それが美海さんと刺し違えることになったとしても、です…!!」


…みなさん、どうやら同じ気持ちのようね。

きっと、みなさんは…もちろん私も、まだ心の中では美海さんと戦うことをよしとしていない。

でも、他に手はない。

たとえ、彼女を遠い日の思い出にしたとしてもーーー

風が、また吹き荒れる。

黒い暴風が、リンクをなくした私たちに照準を向け、一気に吐き出される。

あれを受ければ、私たちは終わりだろう。

だが、ただでは終わらせない。

私たちは、その暴風に向かって飛び出そうとしてーーー


「ーーーアヴェンジェリア!!」

「ーーーエールフレンド、アヴェンジェリア!!」

「ーーーブラッドシールド!!」


瞬間、目の前に滑り込んだ三つの人影ーーーナイアさんとエルエルさんが腕のガントレットを掲げてその暴風を真正面から受け止め、一歩下がったところにいるアルマリアさんが、巨大な深紅の防壁を生み出して私たちの風よけをしてくれている。

「ーーーふにゃーーーーーー!!ナイア、こんなの防ぎきれるの~!?」

「踏ん張れエルエル、あたしだってめんどいけどな…でも、さすがに世界が終わるのは、あたしも嫌なんでね…!!紗夜、ステラ、今のうちにみんなを逃がせ!!時間がないぞ!!」

そう言ってにやりと笑うナイアさんだが、ガントレットに浮かび上がる数字は着実に数を増やしていき、深紅の防壁に少しずつひび割れを増やしていく。

「…ちっ…やっぱリンクなしじゃだめか…!?」

「…そのようですね…。どこまで持つか…。」

それを聞いて、私は驚愕する。

「ーーーーーーまさか、あなたたち、アルドラとのリンクはーーーーーー!!」

…だが、なんとなくそれは察しがつく。

彼女たちは、アルドラであった天音さんを除けば、大河さんとしかリンクしたことはないはずだからだ。

そしてーーー大河さんは今、集中治療室にいる。

それを考えた瞬間ーーー


「ーーー三人とも、もう少し頑張って!!わたしも加勢するよ!!

ーーーエンジェル・ハイロゥーーー!!」


ーーーこの三人がいて、紗夜さんやステラさんがいるなら、この子がいないわけはない。

天音さん。

「天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)」ーーー他者のエクシードの力を増幅し、普通では倒せないウロボロスを打ち倒す力。

天音さんが、手にした弓を引き絞る。

どこからともなく現れた矢をつがえて、天音さんが矢を支える右手を離した瞬間、銀色の矢が一筋の流星のように風へと特攻し、それが弾かれた瞬間、矢は光の粒子となって霧散する。だが、天音さんが狙ったのは風ではない。ナイアさんとエルエルさん、アルマリアさんに吸収されたその光は、ひび割れた深紅の防壁を元通りにし、やがて臨界を迎えたガントレットによって吸収された風が一斉に吹き出し、向こうからやって来る風とぶつかり合って相殺される。凄まじい爆風が私たちを襲おうとした刹那。


「ーーーチェイン・ルミナス!!」

「ーーーニトロブースター!!」


私の腕に光の帯が絡み付いたと思った瞬間、ぐいっ、という急激に上方向への加速が加わる。

「先輩方、大丈夫ですか!?」

私の腕から伸びる光の帯のもう片方を持つ女の子ーーー蒼月 紗夜さんが、私たちに問う。


「紗夜さん…。大丈夫、ありがとう、助かったわ。」

私は紗夜さんにお礼を言って、周りを見回す。どうやら、紗夜さんの光の帯に助けられたのは私だけではなかったようだった。ソフィーナさんと沙織さんも、腕に光の帯が絡み付いている。

「ステラ、セニア先輩とサナギ先輩は?」

「問題なし。二人とも無事。」

セニアさんとマユカさんを抱えたステラさんが、紗夜さんの側に急停止する。

「天音たちは…大丈夫!?」

「だ…大丈夫~…。」

「いててて…何とかなったか…。」

「…正直、だいぶ辛いところですけどね…。」

「大丈夫、じゃないでしょあなたたち!!リンクなしで飛び込んでくるなんて、死ぬ気なの!?」

ソフィーナさんが叫ぶと、それを聞いていたアルマリアさんが、息を整えながら言う。

「…ソフィーナ先輩たちこそ、リンクのない状態で突貫しようとしていましたよねー?」

「そ…それはそうだけれど…。」

たじろぐソフィーナさん。それを見て、紗夜さんが口を開く。

「ーーー先輩たちがウロボロスに意識を侵食された時だって、私たちはリンクなしで戦いました。確かに、アルドラのみんなが封印されたから仕方ないところもあります。

でもーーーそれでも私たちは戦った…戦うことができた…。

それはーーー天音にもう一度会いたかったから。

聞いた感じだと、あの力は…日向先輩のものなんですよね?

なら、私たちも、みなさんと気持ちは同じです。


でも、ひとつ、私は思うことがあるんです。

私たちは、日向先輩に笑顔でいてほしい。

この戦いだって、日向先輩を倒すための戦いじゃない。

私たちは、彼女を助けるために、戦わなくてはならないと思うんです。」


その言葉を聞いて、天音さんたちが一斉に首を縦に振る。それに呼応するように、

「…あなたたちだけじゃないわ。」

「その通りです…。私たちは、諦めてはいけません…!!」

イレーネスさんとユーフィリアさんが、こちらに向かって飛んでくる。それを遮るようにウロボロスが動き始めたのも束の間。

「ーーー翔さん、お願いします!!」

いつのまに追い付いたのか、天空高くから声が聞こえたと思うと、金色の双翼を羽ばたかせたレミエルさんが、掲げた長杖を一気に降り下ろした瞬間、翼から溢れる光は金色の矢尻となり、彼女たちを取り囲むウロボロスに向かって襲いかかる。あっという間に辺りのウロボロスが光となって霧散する中、レミエルさんが私たちの前に降りてきて言った。

「…大河さんと美海さん…お二人がいなかったら、私はきっとダメダメなままで…。自分の可能性に気づくこともできなくて…。成長しようなんて思わなくて…そして…大切な人と…翔さんと会うこともできなかったと思うんです。

私が今、こうして翔さんと空を飛べるのは、お二人のおかげでーーー

…ちょっと恥ずかしいですけど…お二人は、私たちの憧れなんです。」

「私は少し違うけど、レミエルの言いたいことはわかるわ。私も…この右腕の呪いなんて、嫌なものだとばかり思っていたけれど…あの二人のおかげで、それに向き合うことができたのだもの。」

レミエルさんに続いて、イレーネスさんが言う。それを聞いたソフィーナさんが、ため息混じりで言った。

「…どうやら、視野が狭くなっていたのはあたしたちだったようね。」

「…はい。もしかすると、諦めようとしていたのは私たちだけなのかもしれないです。」

セニアさんが、その言葉を補足するように言ったとき。


「ーーーごめん、みんな、遅くなった…ほんとにごめん!!」


イヤホンから声が聞こえた瞬間。

温かな力ーーーαフィールドが、私たちを覆う。

「ーーーこれってーーー」


いやーーー何も言わなくてもわかる。

これは、彼の力だ。

風渡 大河さんーーー私たちの最も信頼する、最高のαドライバーのーーー

(another viewing“Taiga”)

「ーーーよし、ソフィーナたちとのリンクは成功…リンクレベルも、みんな5で安定してるね…。」

リンクを繋いだ後、僕は息をついた。

「大河!?あなた…どうして…。美海の側にいなさいって…。」

ソフィーナが僕に対して、イヤホンを通して叫ぶ。

「…モニターでみんなのこと見てた。それで、僕だけ戦わないのはおかしいって思った。それだけだよ。さっき、紗夜が言ってたでしょ?これは美海を救うための戦いなんだよね?


なら…僕が先陣を切らなきゃ、美海の恋人失格だろ?

…というより、僕が笑顔の美海にもう一度会いたいんだよ。それはそれは誰よりもさ。

まあ、正直、美海がこのまま特異点化していなくなっちゃったりしたとしたら、きっと僕、もうこの世界とかどうでもよくなっちゃうと思うよ。

でもーー-それは今じゃない。まだ間に合うかもしれない。

だから、もうだめだ、これまでだって思うその瞬間まで、僕は諦めない。

きっと、美海は僕を待ってくれてる。かつて、僕がウロボロスの意識に潰されようとしていた時みたいにさ。

明るくて、いつも笑顔で、悲しい顔なんて見せない子だけど。

でもーーー彼女、ある意味で誰よりも泣き虫なんだ。ただ、それをみんなに見せまいと頑張ってるだけなんだよ。

悲しいときも、辛いときも、顔で笑って、心で泣いて…それは僕と一部の人間しかわからないかもしれないけどーーー今、心の会話が途切れてるから、どう思ってるかはわからないけどーーー

ーーーでも、きっと僕を待ってくれてる。なら、迎えにいってあげないといけないよねーーー」


僕は、マイクに向かってそう声をかける。

確かに、僕は美海の側にいることが最優先なのだろう。

だがーーー紗夜たちを見て、その言葉を聞いて、わかったことがある。

僕は、ここで泣いているわけにはいかない。

確かに、美海は僕の目の前にいるけれど。

でも、外で暴れているのは、確かに美海の力で。

僕には、その風の慟哭が、美海の泣き声に聞こえたのだ。

きっと、美海は怖い思いをしている。

ならーーー僕が助けなくちゃいけない。

僕は、美海の恋人だ。

他の人たちではなく、僕にしかない、僕にしかできない資質。

レミエルの方を見る。

僕には声は聞こえないけれど、レミエルと天羽君は、クロスリンクによって、今一緒に空を飛び、戦っている。

天音たちもそうだ。リンクは今は繋いでいないかもしれないけれど、彼女たちにもまた、アルドラやプログレスというものの垣根を越えた強さがある。

そしてーーー彼らは、自分達のできることをしようとしている。

ならばーーー僕ができること。しなくてはならないこと。


それはーーーみんなと一緒に、美海を助けること。

そしてーーー彼女と添い遂げること。

心から、そう思えた。


僕が言った瞬間。


「おーっとぉ!?大河くん、公開告白来たね!!」


イヤホンから聞こえてきた声は、ソフィーナたちのものではない。

「…遥!?ちょっと、聞いてたの!?」

間違いない。遥だ。

「えー、いいじゃん、どうせ大河くんたちラブラブなんだから。というか、イヤホン は基本的に全員に聞こえるでしょ?」

…そういえばそうだった。

「どうやら、本当に忘れていたようだな…。」

「恋は盲目と言いますが…これは本物ですね。今さらかもしれませんが。」

「…うーん、よくわかんないけど、仲がいいのはいいことなのだ!!」

遥に続いて、クラリス、アクエリア、テオの順番にちょっかいを出してくる風紀委員メン バー一同。それに続くように、

「ーーーったく大河、お前、水くさいぜ!!」

「そうだぜ、自分だけで悩んで、自分だけかっこいいとこ見せようってことか?いつも一人で悩むなって言ってるやつが、こんなときに一人でうじうじ悩んでどうするんだよ?」

「まあ、確かに美海ちゃんの彼氏はお前かもしれん。だが、お前だけが美海ちゃんの笑顔が見たいと思うなよな!!」

…数人の男子生徒に続いて、他のプログレスやアルドラのみんなも、僕に対していろいろ言ってくれる。

それは、僕と美海のこと。

みんな、僕たちのことを見ていてくれる。

たまに言い方がきついものや変なものもあるけれど、それだって、僕たちを見守ってきて くれた証。

ーーーみんな、ありがとう。

僕は、マイクに向かって声を張り上げた。


「ーーーみんな、本当にありがとう。

お寝坊の得意な僕の彼女を起こすためにーーーみんな、力を貸して!!」

「もちろんだよ!!よーし、美海ちゃんを助けるために!!

青蘭学園一同ーーー」

『ふぁいと、おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!』


第二風紀委員時代から続く、遥の音頭。

それに合わせて、仲間たちの頼もしい声が、僕の耳に向かって次々に飛び込んできた。

( another viewing“Xenia”)


「…さて、ここからどうするか…。」

みなさんに指示を飛ばした後、マスターは考えこんでいた。

マスターは、わかっている。

ーーーやる気だけでどうにかできるほど状況は甘くない。

ウロボロスは数を増し続けていて、このままではじり貧になることは明らかだ。

それなら、一刻も早く美海さんを起こしたらいいのかとも思うけど、リンクが繋げない以上、それも難しい。そう思っていると、イヤホンを通してユフィが私に連絡を入れてくる。

「ーーーママ、こちらの解析、終了しました。」

「わかりました、ユフィ、お疲れさまです。」

みなさんが戦っている間、マスターは私とユフィに、美海さんの今の状態をもっと詳しく調べられないかどうか、具体的には、どうにかしてリンクを繋ぐための穴はないかどうか…それを探すのをお願いしてきていた。 やはり、ウロボロスの侵食を受けたあのときのように、心に直接働きかけることが、きっと一番有効なのだろうと思ったかららしい。

「セニア、ユフィ、お疲れ様。どうだった?」

研究室から出てきた私とユフィに、マスターが聞いてくる。

「はい、美海さんの意識そのものとリンクを繋ぐことは、今のところをもってしても難しいと言わざるを得ませんがーーー融合しようとしているウロボロスに似た意識の方から、世界水晶そのものに繋がるバイパスのようなものを見つけました。」

「ーーー世界水晶に繋がるバイパス…?」

その問いには、ユフィが答える。

「そうです。そこから、美海さんの力によく似たエクストラが、世界水晶に向かって流れ込んでいること、そしてーーーそれが流れ込むにつれて、他の世界の世界水晶と少しずつ引き合う性質があることを見つけたんです。それが特異点化によるものなのか、はたまた違う現象であるのか…それはわかりませんが、いずれにせよ、そのバイパスに、どうにかしてアクセスできれば…。」

「それを伝って、美海の意識に接続できる可能性は極めて高い、だね。」

「だが、それを行うにはどうすればいいのか…。」

私やユフィと共に作業をしてくれていたDr.ミハイルが、苦虫を噛んだような顔をして言う。

確かに、世界水晶を通して意識にアクセスできる可能性があるのは理解したが、そのためにはどうすればいいのか。しかし、その疑問は、イヤホンから聞こえてきた声で氷解した。


「ーーー大河さん、私とリンクした状態なら、なんとかなるのではないかしら?」

「アウロラ…?どういうこと?」

マスターが、イヤホンで繋がるアウロラさんに問う。

「ええ、思い付きではあるけれど、私はそもそも、赤の世界の世界水晶の意志でしょう?そして、世界水晶が互いに引き合っているならば、引き合うための何かのつながりもあるはずだから。私とのリンクを媒介にすれば、もしかしたら意識を繋げることができるかもしれないわ。それに、同じ世界水晶の意志であるシルトさんが学園の守りをしてくれている以上、それができるのは私だけだわ。どうかしら?」

「ーーーそんなことして、アウロラは大丈夫なの?」

また、マスターがアウロラさんに問うた。当然だ。それでアウロラさんが危険な目に遭ってしまえば意味がない。だが、アウロラは「心配しないで。無理はしないから」と言って、こう続けた。

「あなたはさっき、私たちに言ったわ。美海さんがいなくては意味がない。私も同じ思いだから、だから私もいなくなるわけにはいかない。美海さんを助けられたとして、もしもその場に私がいないことを悲しむことになってはいけないもの。」

…なるほど。

マスターも納得したのか、声に力を込める。

「ーーーよし、それでいこう。考えてる時間も惜しい。アウロラ、お願いするね。」

「わかったわ。」

「ちょっと待ちなさい。」

その時、ソフィーナさんが、会話に被せるように言った。

「あんたたち、どうして自分たちだけで行こうとしてるのよ?あたしも行くわ。あの子にはいろいろと言いたいことがあるから。嫌だって言ったって行くわよ。大河とリンクしてる今なら、私の意識も一緒に飛ばすことだってできるでしょ?」

…確かに、理論としては可能かもしれない。

「同感です。私も、マスターと一緒に行きたいです。」

私も、その案に賛成するべく口を開いた。それと同時に、

「わ…私も行きましゅっ!!美海さんの役に立てるなら…!!」

マユカさんも私と同じ気持ちのようだ。

…美海さんとマスターは、私にとっても恩人の一人だ。

生み出されたばかりで何もわからなかった私に、たくさんのことを教えてくれて。いろんなところに連れていってくれて。

その好奇心旺盛な私が失敗したときも、嫌な顔ひとつせずにいてくれた。

そんな、大切な人たちだから。

だから、お二人が困っていたら、今度は私が助けなくては。

お友達になってくださった、お二人のためにもーーー

(another viewing“Taiga”)

ソフィーナたちの申し出に、僕は少し戸惑う。

リンクしたまま意識を飛ばすだけなのだから、まあ、それはできないことではないだろう。

だが、大丈夫なのか…?

正直、防衛もだいぶギリギリだ。守りの要であるアウロラを欠くだけでも辛いはずなのに、EXR(エクス・リベリオン)クラスを複数人連れていくことは、さらに防衛に穴を空ける ことにもなりかねない。

だがーーー

「風渡君、ソフィーナさんたちも、こちらは大丈夫です。美海ちゃんを、早く迎えにいってあげて。」

学園の防衛に回ってくれている沙織が、僕たちを後押しするように言う。それに呼応するように、

「先輩、頑張って!!」

「大河くん、ふぁいと!!彼氏の力、ここで見せちゃいなよ!!」

「大河、行ってこい!!こっちは俺たちに任せとけ!!」

「まったく、お前らがイチャイチャしてるのを見られないのがこんなに嫌に思うとはな…。こっちは気にすんな、色男!!ちゃっちゃと帰ってきて、また俺が嫌になるくらい二人でイチャイチャしやがれってんだ!!」

ーーーみんなが、声をかけてくれる。力を貸してくれる。

こんなにもーーーこんなにも嬉しいことなんてない。


「ーーー大河くん。」


遥が、みんなの声が落ち着いたところで、イヤホンを通して僕に話しかけてくる。


「…やっぱり、美海ちゃんと大河君はすごいよね。みんなにこんなに信頼されて、待っててくれる人がいるんだから。


ーーーだから、絶対帰ってきてね。

名物の風紀委員長と生徒会長がいないなんて、そんな青蘭学園、暗い部屋で白ご飯を食べてるみたいなものだと思うもん。


ーーーだからーーー行ってらっしゃい。」

ーーー遥、ありがとう。

僕は、みんなに声をかける。

「ーーーよし、わかった。みんな、僕たちが美海のところに行っている間、なんとか持ちこた えて。頼んだよ。」

『10-4!!』

みんなが、僕たちのために頑張ってくれる。

ならーーー僕は、僕のできることをやるまでだ。

「よし…みんな、行こう!!」


僕の声に合わせてアウロラが世界水晶に働きかけた途端に、凄まじい眠気が僕を襲う。

どうなるのかはわからない。

きちんと美海の元に行けるのかもわからない。

でもーーーみんなが待っているから。

だから、僕たちは進むだけ。

ーーー美海、待ってて。

眠気に負ける寸前に、僕はしっかりと呟いた。



ーーーあれ?

私は、違和感に気づく。

何かが、私の中に入ってくる。

なんだろう。

(美海、ここだよ。僕はここだよ。)


誰が言っているのだろう。

私?それとも、他の誰か?それは誰?

…まあ、いいか。

結局、どうしたってわからないものはわからない。


ーーーでも。

何も見えなくても、私の中に入ってきている、心に伝わってくる気持ちは。

どこかで覚えのある、そんな温かいものだった。

思わず、そちらに向かって手を伸ばしたくなるくらいに。


その瞬間ーーー私の心と、その温かな心が、繋がる。

意識が、はっきりしてくる。

記憶が、甦る。

一人の女の子ーーー日向 美海としての私の心が。

闇に呑まれたはずの私が、今、この場に立っていたーーー



(another viewing“Taiga”)

ーーー目を開ける。

その場にあったのは、黒だった。

目の前も、周りも、黒一色の世界。

ーーーまた、こんな世界に足を踏み入れることになるなんてね。

そう思った瞬間、僕は周りに誰もいないことに気づく。

「ーーーソフィーナ、アウロラ、セニア、マユカ!!どこにいるの、聞こえたら返事して!!」

そうやって叫んでも、その声は漆黒の闇の中に消えるだけ。

…ここに来れたのは、僕だけなのか?

だが、確かに彼女たちとのリンクは繋がっているようだ。

…ここは、みんなが無事であることを祈るしかない。

僕は心を決めて、前に歩き出そうとしてーーー


「ーーーどこ行くの?」


手を握られたことがわかった時、僕は後ろを振り返る。

いた。

美海だ。


「…やっと会えたね、美海。」


僕の口から出てきたのは、そんな言葉だった。

ぽかんとする美海。

僕は、美海に言う。

「みんな待ってるよ。一緒に帰ろう。」

「帰る…?」

今度は美海が言う。

「帰る場所…ないの。みんな、私を避けるもの…。あなたのせいで、って。大河君を死なせて、世界を救う可能性をなくしたのは、あなただってーーー」

…僕は、この言葉でぴんと来てしまう。

「…それが、君が特異点になった時なのかな?ユフィから聞いたけど、そう言うってことは、もしかして、もう完全に特異点になっちゃった感じ…なのかな?」

びくっ、と、美海の肩が跳ねる。

…どうやら、その通りみたいだね。

「あ…ごめんね、そんな顔をさせたかったんじゃないんだ。」

僕は慌てて美海に謝って、それから彼女の目を見て言う。

「…ねぇ、美海。その僕は、どうやって死んだんだろう?」

「ーーーえっ…?」

美海の顔が、驚愕に歪む。

…それもそうか。

ユフィ曰く、特異点は、可能性の大きな分岐点。

それがいつのことなのか、僕にはわからないけど。

でもーーー今、美海は僕の名前を出した。

つまり、僕のせいで、美海は辛い思いをしたんだろう。

ならば、僕は、それを知らなくてはならない。

それが、僕のできることなのだろうからーーー


美海は、ポツリポツリと話し始める。


「…キミはあの時、私を庇おうとしたの。

入学式の時…木にぶつかった時。

もう一人の私ーーー私の中にいる、特異点としての私が、自分の記憶を私に教えてくれたの。」

…やっぱりか。

僕は、美海のことを助けようと思うあまり、自分自身のことをまったく考えられていなかったんだろう。

そして、咄嗟のことだったとはいえ、それで僕は、その可能性における美海を傷つけることになってしまったんだ。


「…ごめんね、美海。僕のせいだ。」


僕は、美海を抱き寄せる。

美海は、逃げなかった。

ただそこにいて、僕の知っている美海のように、僕を受け入れてくれた。

「…ねぇ、美海。さっき、融合が終わっちゃったのかな、って言ったけれど…。この様子だと、まだ世界には未練があるみたいだよね。」

美海は、僕の方を見て、涙を流しながら言う。


「ーーー当然だよ…だって、キミと一緒に暮らした世界なんだもん…。みんなと一緒に暮らした世界でーーー特異点としての私からすれば、もしかしたらここにいたかもしれない世界なんだもん…!!嫌だよ…私のせいで世界が壊れちゃうなんて…そんなの、絶対嫌だよ…!!

…でも、だめなんだよ…特異点としての私が言ってる…。世界が壊れるのは必然だって…。全 部の世界の全部の可能性から特異点を…誰かが泣く可能性のすべてを取り去らない限り、世界を救う手段なんてないんだって…!!」

「…そっか、そうなのか。」

僕は、泣いている美海を、もう決して離さないとばかりに抱き締めて、こう言った。


「ならーーー現在、過去、未来のなかで、

誰一人として涙を流すことがなければいいんだよね?」


(main viewing)

ーーー私は、言っていることがわからなかった。

大河君は、ぽかんとする私に対して言う。


「ねぇ、美海。僕が死んだとき、その選択をしたのは誰だろう?美海なのかな?

…違うよ。全然違う。きっとその時の僕は、自分でその選択をしたんだ。だから、美海が特異点だって言うなら、その場にいてその選択をした僕だって特異点だ。君だけの責任じゃない。そして、僕にとって、特異点の美海だって美海だ。

特異点は、可能性を一本化する可能性を秘めたものなんだよね?

なら、全部終わった後、僕たちが、世界を絶対に救う可能性になればいい。そのために、どうにかして頑張り続ければいい。

だから、そんなに思い詰めないで。

二人で、一緒に考えようよ。

僕は、泣いてる美海より、笑顔の美海が、大好きなんだからさ。」


私は、彼に問う。

「ーーー許して、くれるの…?もう一人の私が…ううん、私自身も、大河君にひどいことしたのに…!!」

彼は、そんな私に、いつも見せてくれる笑顔で、こう言った。


「何言ってるのさ。美海は何も悪いことはしてない。だから、僕は気にしてない。する必要もないさ。

…というか、僕は君がいなきゃほんとにだめだからさ…。だから、僕から側にいてってお願いしたいところだよ…。」


「ーーーよく言ったわね、大河。」※1

YouTubeより「Tears BLEAKER」: https://www.youtube.com/watch?v=rvR6aVZG8TM


ーーーえっ?

聞き覚えのある声が聞こえた瞬間、私は、自分のすぐ左に立っている小柄な姿を見た。

「ーーーソフィーナちゃんーーー」


「美海さん、私もいます。」

ソフィーナちゃんの隣、私とは反対側に、また一人。

「セニアちゃんーーー」


「私もよ、美海さん。」


「私も、来ちゃいました。」


私の右隣に、アウロラちゃんと、そのまた右隣に、マユカちゃんが降り立つ。

「アウロラちゃん…マユカちゃん…。」

びっくりする私の前に、みんながいる。

「みんな…無事だったんだね!!」

大河君が、みんなに向かって言う。

「当然。まあ、大河とリンクが繋がっていて助かったところはあるけれど。それを辿ってこられなかったら、きっと迷ってどうしようもなくなってたでしょうね。」

「…そっか。」

ソフィーナちゃんの言葉に被せるように、大河君が言う。

「…ねぇ、美海。君も知っている通り、リンクの力は絆の力だ。そして、それは友達、恋人、家族…何でもいいけど、その力は、最初は出会うための力で、出会わなければ、可能性はない。

でも、僕たちはこうして出会えたじゃない。

あのことがあったから僕たちは出会って、一緒にいろいろなことして、周りに文句を言われそうな恋人になれたんじゃない。

ここのみんなだってそう。出会えたから友達になれたんだ。

それに、最初は最悪でも、よくすることはできる。それだけ、可能性っていうものは無限大なんだ。

…そもそも、僕たち二人が揃ったら、怖いことなんて何もないよ。

だって、僕たちは最強のプログレスと最高のアルドラで、恋人で、パートナーで、青蘭学園の生徒会長と風紀委員長なんだからさ。


大丈夫だよ。君と僕なら、絶対、ね。」

大丈夫だよ。

私や彼が、ずっと言ってきたこと。

そして、特異点としての私が、私に対して言ったこと。

でもーーー大河君の「大丈夫」は、私にとって、本当に心地よい。

大河君が、手を伸ばす。

私がその手をしっかりと握りしめると、彼の大きな手の温かさが、私の手をしっかりと包み込んでくれる。

私のもう片方の手を繋いだのは、アウロラちゃん。アウロラちゃんのもうひとつの手を繋いだのはマユカちゃん。

大河君のもうひとつの手を繋いだのは、ソフィーナちゃん。ソフィーナちゃんのもうひとつの手を繋いだのは、セニアちゃん。

(ーーー美海、帰ろう。僕たちの世界に。)

大河君が、握った私の手に、優しく力を込める。

ーーー心の中に、大河君の声が蘇ってくる。

ずっと聞きたかった、この声。

闇の中で、私がそれに向かって手を伸ばし続けたいと思った声。

それが、今、私の隣にいる大河君から伝わってくる。

この空間ではエクシードが使えないということを、私の中にいる、特異点としての私が言っていたことを思い出す。

でもーーー今の私には、大河君がいる。

それだけで、私はどこまででも行ける。

『ーーーエクシード・リンクーーー!!』

私と大河君の声が重なる。

その瞬間ーーー私の周りに、凄まじい轟音と共に、白銀の旋風が巻き起こる。

銀色の風は、暗黒の世界に吹き荒れて、漆黒の壁を切り裂く。

真一文字に断ち切られたその隙間から光が差し込みーーー私の大好きな青空が、私たちの目に飛び込んできた。

ーーーだが、私の負の可能性を吸い上げ、その力を得た漆黒の暴風は、その程度では止まらない。ふたたび私たちを捕食すべく、黒い風は腕を伸ばし、ウロボロスを吐き出し続ける。

「ーーー大河、美海、あなたたちはクロスリンクして、あの風をどうにかしなさい!!」

「クロスリンクって…ソフィーナちゃん!?」

私はびっくりして、ソフィーナちゃんを見る。

確かに、ソフィーナちゃんたちは強い。だが、私と大河君がクロスリンクをすることは、大河君はソフィーナちゃんたちとのリンクを破棄しなければならないということに他ならない。リンクのない状態でどこまで戦えるか想像がつかないし、何より危険すぎる。

そんな時だった。


「ーーー美海さんーーー!!」


きっと、あり得ないところから突然現れた私たちに気づいてくれたんだろう。金色の翼を羽ばたかせたレミエルちゃんが、私たちの前に降り立つ。

「みなさん、ご無事だったんですね…!!よかった…。お二人とも、ソフィーナさんたちは 大丈夫です。もう少しで、みなさんのアルドラさんたちが復帰しますし、他のプログレスのみなさんもこちらに向かってくれているんです。…ええと…確かに、ちょっと速すぎちゃいましたけど…。思いっきりみなさんのところ、置いてきちゃいましたけど…でも、みなさんが合流して、ソフィーナさんたちのアルドラさんの復帰まで、私と翔さんが皆さんをお守りしますから…!!」

…レミエルちゃんと翔君は、私と大河君と同じ、可能性解放の境地に至り、絆を極限まで昇華した二人。これほどの援軍は、今の私たちにとって、本当に心強い。

「ーーーレミエルちゃん…。翔君も、ありがとう。」

私は、二人にお礼を言った後、大河君に向き直る。


「ーーー大河君。」

「ーーーうん、一緒に行こう、美海。」

私の手が、大河君の手を握る。

大河君の手が、私の手を握り返す。


『ーーーエクシード・クロスリンクーーー!!』


私と大河君が、同時にリンクを繋ぎあう。

私と大河君が、ひとつになる。

私の髪を結ぶ白いリボンが解け、赤の世界の天使のみんなみたいな白い翼が、私の背に現れる。


ーーー私のーーー私と大河君の、可能性解放。

でもーーーその姿は、以前のものとは違う。

そして、流れ込んでくるのは、大河君とのリンクだけじゃない。

(「ーーーこれって…まさか、みんなのーーー?」)


大河君が、私の心に呼びかけてくる。


(「そうみたい…。みんなの心が、私の中にあるみたいーーー」)

(「ーーーどういうことなんだろう?特異点になったから…?」)

(「わからないけど…でも、それでも大河君、ちゃんと制御できてるじゃない。」)

(「…まあね。僕はそれ以外に、なんの取り柄もないからさ。」)

(「…なんの取り柄もないとか言って、私の恋人なんだなー、これが。」)

(「あはは…そうだね。まあとりあえず、あの黒い気味が悪い風、さっさとどうにかしちゃおうか!!」)

(「うん!!」)


私は大きく頷いて、黒い暴風へと一直線に飛び出す。


(「私のエクシードーーー風の支配者(ドミニオン・エア)の力ーーー

みんな、私と大河君に、力を貸して!!」)


右手に、私の全身を覆うものと同じ、白銀の旋風を纏った細剣が姿を現す。


「それじゃーーー大河君、みんな、いっくよーーーー!!」


私は、その右手の剣をしっかりと握り直し、漆黒の暴風に向かって一気に突き出した。なにかが爆発するような音を立てて、剣先から発せられた白銀の旋風が、漆黒の暴風に向かって、一直線に突き進んでいく。双方の風がぶつかり合ったその瞬間、凄まじい轟音と共に、風と風が互いに互いを押し返し合い、それらの干渉によって増幅した風が周りに吹き荒れ、またそれらがぶつかり合い、そして互いに相殺し合う。

「ぐ…うぅぅっ…!!」

私は歯を食いしばって、その凄まじい衝撃に耐え続ける。

クロスリンクは、αフィールドのあるなしに関係なく、プログレスとαドライバー双方に、同様の苦痛を強いるものでもある。当然、私の中にいる大河君も、同じだけの衝撃に晒されているはずだ。

だけどーーー


(「…頑張れ…美海、頑張れ…!!」)


私と同じ苦痛を味わっているはずの大河君。

だけど、その声が、私に力をくれる。

みんなの気持ちも、私に力をくれる。

そして、私の中にあるみんなの力を、彼は完璧に制御してくれて、それはリンクを通して私の力に変わっていく。

だから、私は立っていられる。

これが、絆の力だと知っているから。

無限の可能性を秘めるその力が、私たちだけのものじゃないことを知っているから。

だから、私と大河君は、どこまでも強くなれる。

止まらない嵐を止めるために。

もう一人の私が感じた孤独を、消し去るために。


どんなことがあっても、私たちはーーーその先にある明日が見たいから。


『ーーーいっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!』


私と大河君の声が、重なる。

銀色の風と相殺し合っていた漆黒の風が、銀色の風に飲み込まれ、少しずつ小さくなっていく。


(ーーーねぇ、もう一人の私。

特異点になっちゃったわけだけれど、でも、ほんとにどうにかしちゃうあたり、やっぱりすごいよ。

…あ、そういえば、言い忘れてた。

特異点は引き合うよ、って言ったよね。それは、何も私とあなただから引き合ったわけじゃない。特異点同士は、誰がなっても引き合うことになるの。もしかしたら、今のあなたなら、私たちみたいに他の世界に渡っていって、本当にその時間の特異点を正しい方向に直せちゃうかも。

大河君、誰もが泣かないようにすればいい、なんて言ってたけど、それ、実現できると思うんだ。

…だから、いつか、私の生きた可能性の時間軸にも来てくれないかな…?だめ、かな?


…だって、私も、大河君と結ばれる未来が見たくなってきちゃったんだもん。絶対来てね。約束だからね…。)


私の心の中にいたもう一人の私が、消えていく。

…きっと、自分の世界に戻ったんだね。

目の前には、もう黒い暴風も、周りにたくさんいたウロボロスもいない。

あったのは、雲ひとつない青空と、水平線まで続く海。

振り返れば、私たちの学舎、青蘭学園があって。

たくさんのプログレスのみんなが、こちらに向かって飛んでくるのが見えた。


…でも、まだお仕事はあるんだよね。

私は、そう心の中で呟く。

(「…うん、そうだね。特異点としての、すごく大切な仕事だ。」)

(「ーーー大河君、このまま、みんなとリンクってできるかな?」)

(「…あ、同じこと考えてたね。」)

(「えへへ…わかってて言ってるもん。それで、どうかな?」)

(「うん、やってみよう。今、僕たちはクロスリンクしてる状態だし、プログレスにもアルドラにも、両方に繋がるんじゃないかな。」)


そう言って、私たちは笑いあう。

みんなに、伝えよう。

私と大河君が、何をしなくてはならないのか。


(「みんな、聞いて。」)※2

YouTubeより: 「HARMONIZE」 https://www.youtube.com/watch?v=ENXhGkkaFJ4

みんなとリンクを繋いだ私たちは、心の声でみんなに言う。

…正直、できるとは思わなかった。

大河君が、プログレスのみんなに。

私は、アルドラのみんなに。

それぞれリンクを繋いだけれど、これは、私たちの言葉。

だから、プログレスも、アルドラも、みんな、同じように理解できるはず。

(「みんな、私のことを信じてくれて、本当にありがとう。」)

(「…僕もだ。みんな、僕に美海を助ける力を貸してくれて、本当にありがとう。)

私たちからの一方的なリンクだから、みんなの声は聞こえない。

…でも、みんな、きっと私たちの言葉を、しっかり聞いてくれている。

(「…実はね、私たち、まだやることがあるの。

どうやらね、私はこの世界の特異点…あ、特異点っていうのは、可能性をひとつにしかねないものらしいんだけど、それになっちゃったみたいなんだ。それで、みんなにはすごく迷惑かけちゃった。本当にごめんね。」)

(「ーーーでも、そうなったからこそ、僕たちは世界を救う手がかりを得ることができたんだ。

それが、僕たちがこれからやらなくちゃならないこと。

特異点は、どうやらユフィみたいに時空を移動できるらしくて、そんでもって、他の特異点を修正できる可能性を持ってるんだって。」)

(「ーーーそれから、特異点は、いい可能性と悪い可能性に別れるところにできるもので、悪い可能性を取り去らないことには、世界を確実には救えないんだって。

だから、それを修正できる可能性を持ってる私たちが、それをしなくちゃならないの。」)

…私の中にあるみんなの気持ちが、動揺している。

…それもそうだ。私たちの言っていることは、すなわち、このままみんなとお別れすることになるのかもしれない、ということだから。

でもーーー私たちは、笑顔を絶やさない。

これは、お別れじゃないって信じてるから。

きっと、また会えると信じてるから。


(『大丈夫だよ。』)


私と大河君の声が、また重なる。

(「私たちは、いなくなるわけじゃない。」)

(「みんなと約束したからね。絶対帰ってくる、って。

ーーーだから、みんな、泣かないで。きっと、また会える。」)


『みんなの気持ち、みんなとリンクしたまま、一緒に持っていくからーーー

みんなとは、いつも一緒だから。


だからみんな、ありがとう。行ってきますーーー』


私たちはそこまで言って、天に聳える門ーハイロゥーを見上げる。

「さぁ、大河君。一緒にいこう。」

(「うん。いつまでも、僕たちは一緒だ。」)

…えへへ。

こんな時だからこそかもしれないけれど、この言葉は、私にとって心地よい。

私たち二人なら、きっとできる。

手を取り合い、助け合い、時には喧嘩もするかもしれないけれどーーー

でも、私たちの可能性は無限大だから。

お互いがいなければお互いがいない、それを知っているから。

お互いがいれば、どこまでも強くなれるから。

だから、私たちは一緒に行くんだ。

二人で、同じ未来を歩むために。、

私たちは、背中の翼で風を捉え、世界を繋ぐ門の放つ光の先へと一直線に飛び出していく。

さあ、行こう。

私たちの夢見る未来を。

私たちの生きる現在を。

そしてーーー愛する人たちのいるこの世界を、守るための旅へとーーー




第5章 終



作中オススメBGM

出典:YouTube様

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