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執筆者の写真Kokoro

『Le vent de hope-風が届ける明日への詩-』Ange Vierge if episode finale“Miumi”第1章

更新日:2024年4月9日


著:Kokoro

主となる設定原作、設定出典

『TCG アンジュ・ヴィエルジュ』

原作 KADOKAWA 、富士見書房

販売 メディアファクトリー

『アニメ アンジュ・ヴィエルジュ』

KADOKAWA、SEGA 他

『アプリ アンジュ・ヴィエルジュ ガールズバトル』

セガゲームス、f4samurai

『アンジュ・ヴィエルジュ リンケージ』 KADOKAWA

原作 駒尾 真子、 作画 吉岡 榊

その他、漫画作品、ライトノベル作品など、『アンジュ・ヴィエルジュ』関連の作品等の製作に関わられたすべての方々

(前作『Aile de Lien』の出典の記述の方が少々不完全だったので、こちらにて正しく追記させていただいております。これでももしかすると不完全かもしれないのですが、どうかご容赦ください。)


初めに


ご興味を持っていただいたすべての皆様へ

Kokoroです。みなさん、お久しぶりなのです。

前作「Aile de Lien」の終わりから、もう2ヶ月が経とうとしているのですね。長いような短いような、そんな気がするのですね。

さて、Twitterさんの方でも前作の前書きでもお話ししていたものなのですが、実は、この物語『Le vent de hope-風が届ける明日への詩-』(「明日への詩」=ハーモナイズ、と読んでくださいです(アンジュさんをご存じの方なら、きっとよくご存じのものなのですね)。このタイトルがどうやって生まれたかについては、今見られるかはわからないのですが、気になる方は私のTwitterさんにてタイムラインを頑張って遡ってみてください、とだけお話ししておこうかな、と思うのです)は、『Aile de Lien』の製作の前に作ってみようと思っていた、「私の考えるアンジュさんの最終章」になるのです。私の中では、前作を含めた5つの作品、すなわち2018年9月末現在までに私が書こうと思っていたもの、それらはすべてこの作品に繋がる作品である、ということになっていて、本来なら、各世界から一人ずつ選んで物語を作り、それらを後ほどこの作品に集約しよう、と思っていたところ、考えていた段階(2018年4月)には、すでに「護世界の少女編」が公式から発表されており、今後のお話と似たようなお話になってしまったらどうしよう、と思ってしまって、一時期書くことを躊躇してしまったのですが、みなさんから前作はとても楽しんでいただいたというお言葉をたくさんいただいたこと、そして、ぜひこのお話を読んでみたい、というご意見があったこともあり、改めて、アプリさんの内容がわからないうちに先に書かせていただくことにした、という次第なのです。

その都合上、お先にみなさんにお伝えしておきたいこととして、アプリさんがまだ終わっていないことも考えて、

・原作やアプリさんの終わりかたに準拠するとは限らないこと

・もしかすると、今後、アプリさんにて語られるお話に似たお話になってしまうかもしれないこと

・アプリさんの内容がわからないうちになんとか終わらせて公開できるように頑張るつもりではあるのですが、もしもアプリさんの方が先行して詳細な内容が明らかになり、今後アプリさんにて語られるお話と似たような内容になってしまって、私がそれ以上書くことができないと判断した場合、途中であっても書くことを中断する可能性、あるいはページからの削除なども、公開先である「Azur Valkyrie」様のリーダーさんに私からお願いする可能性があること

といったことをご了承の上、お楽しみいただければと思っているのです。


また、とりあえず今回はプロローグだけのとても短い内容で、本編は次の機会ということになるのですが、今後読んでいただく上で、「Aile de Lien」ともリンクした作品であるため、前作で出てきたキャラクターさんや、そちらで語られた設定が出てくるときがあるのです。そのため、前作をご覧になっていない方は、前作を先に読んでいただいて、それらも含めて楽しんでいただければ幸いなのです。

では、長いお話はここまでにして、はじまりはじまり、なのです~♪


前書き

今回のお話は、視点はとりあえず美海ちゃんなのですが、あくまでも私の想像した「if」の世界であり、アンジュさん本編とは実際のところ、かなり違うであろうお話になっていますです。オリジナルキャラクターさんのお名前もあるのですが、実際にはいらっしゃるかもしれない方とはまったく関係がないので、軽いお気持ちで読んでいただければ、と思いますです。




Prologue


青蘭学園に訪れた、何度目かの桜の咲く季節。


『卒業生、入場ーーー』

そのアナウンスと共に、今年度の卒業生たちが、周囲の拍手に迎えられて、ぞろぞろと講堂に入場してくる。

学園長の挨拶、来賓の挨拶が済んだ後、

『卒業証書授与、卒業生代表代理、「理深き黒魔女」ソフィーナ』


呼ばれたソフィーナが席から立ち上がり、壇上へと上がる。学園長から卒業証書を手渡され、深くお辞儀をして降壇した後、


『在校生送辞、在校生代表、蒼月 紗夜』


アナウンスの後、今度は在校生の席から立ち上がった紗夜が、壇上のマイクの前に立つ。


「ーーー冬の寒さも和らぎ、春の訪れを感じることのできる季節となりました。

この日、この青蘭学園を旅立たれる先輩方、ご卒業、本当におめでとうございます。

私たち在校生は、先輩方から、時に優しく、時に厳しくご教授をいただき、共に笑い、共に悩みながら、充実した学園生活を送らせていただきました。目を閉じれば、その日々が今でも蘇ってきます。」


紗夜はそこまで言って、瞳に涙を浮かべながら、送辞の書かれた原稿を閉じる。

私には、言いたいこと…言わなくてはならないことがある。

それは、原稿には書かれていない。

それを言うのは辛いけれど。

でもーーー言わなくては。

紗夜の口が、震えながら言葉を紡ぐ。


「ーーー日向 美海前生徒会長、及び、風渡 大河前風紀委員長ーーー

あのお二人がこの場にいないこと、それは、先輩方だけでなく、私たちの心にも、とても受け入れがたいことですーーー」


言いながら、紗夜は壇上から卒業生の座る席の一角を見つめる。

そこにあるのは、二つならんだ空席。

一つは、日向 美海の席。

一つは、風渡 大河の席。

誰よりも強く、誰よりも優しい先輩二人。

いつも二人で並んでいて。

笑顔を見せてくれて。

いつだって前向きで。

妬けてしまうくらい仲睦まじくて。

そんな、プログレスとαドライバーの垣根を越えた、理想の二人。

だからこそ、出席番号がまったく違うにも関わらず、準備の段階でこの二人の席は隣同士にした。それに文句をいう人は、先生方を含めて誰もいなかった。


ーーーだが、今、その二人はいない。


今、どこにいるのだろう。

何をしているのだろう。

そもそも、生きているのか、この世にもういないのか。

それは、彼ら以外誰も知らない。

講堂に暗い雰囲気が漂いはじめる。

ーーーみんな、わかっているんだ。

この学園にとって、あの二人がどれだけ大事な存在だったか。

紗夜は一度、涙を浮かべた目を閉じる。

彼らと過ごした日々、それを心に浮かべながらーーー



第1章「平和な今と暗い夢」


黒の中に立っていた。

見渡しても見渡しても、周りに見えるのは漆黒の闇。


(ーーーーー)


声が聞こえた。

聞き覚えのあるーーー私と同じ声。


(ーーーごめんなさい…ごめんなさいーーー)


目の前にいるのは、私。

目の前の私は、目からつうっ、と頬に向かって涙を伝わせて呟く。


(ーーー私がいたから…だからこの世界はーーーだからーーー)


目の前の私は、何を言っているのだろう。

私がいたから?

世界がどうしたの?

右手にぶら下げた鐡の細剣が、目の前の私の手から滑り落ちる。


(ーーー失った可能性は、もうーーー戻らないーーー)


頬を伝っていた涙が、ぽたりと地面へと落ちて、同時に、同じく地面に落ちた鐡の細剣が、激しい音を立てて足元を転がる。

その柄は、彼女の右手の色と同じ、どす黒い赤に染まっていたーーー


「…っ!」

がばっ、とベッドから起き上がる私。

「…夢…?」

嫌な夢を見たような気がした。

目の前に私がいて、私が泣いている夢。

…ほんと、何だったんだろう…。

そうしているうちに、お部屋のドアがトントン叩かれて、来客を告げた。

「おはよう、美海。僕だけど。」

「…え?」

間違いない。風渡 大河(かざわたり たいが)君。私のαドライバーで、大切なパートナーで、私の大切な人。

「あ、もう起きてたんだね。大丈夫?もしかして、体調とか悪い?」

「う、ううん!元気だよ?…でも、なんでキミが私のお部屋の前に…?」

「いや、朝教室に来た時にいなかったから。先生に聞いても、休むっていう連絡も来てないっていうし、心配だったから、許可をもらって様子を見に来たんだけど。」

「…ふぇ…?」

傍らにある目覚まし時計に目をやった瞬間ーーーーーーー

「…あーーーーーーーーーーー!!」

目を疑った。

目覚ましの針は思いっきり遅刻確定の時間になっている。急速に頭が冷えてきた。…そういえば、昨日目覚ましをかける前にお布団にくるまっちゃったんだった…!

…仕方ない。

「…ごほっ、ごほっ。あー…ごめん、やっぱり体調悪いかもー。タマちゃん先生にはそう言っておいてほしいなー…なんて。」

「はぁ…そんなことだと思ったから、あたしもついてきてあげたわよ、美海。」

「…え?」

…ソフィーナちゃん…?大河君だけじゃないの…?

「まったく…あんたのことだから、心配性で人の良すぎる大河なら適当に言っておけば過剰に心配してお大事にって言って帰ってくれると思ったのだろうけれど、そうはいかないわよ。早く着替えて出てきなさい。」

「えっと…会長権限とか…」

「生徒会長が遅刻した挙げ句にずる休みしていいはずないでしょう!?いいから早く出てきなさい!!」

うぅ…やっぱり駄目かぁ…

そんなことを思っていると、

「美海、一緒に行こう。その…今だったら、通学路にもそんなに人いないだろうし。」

大河君の言葉の後、ソフィーナちゃんが付け加えるように言った。

「ほら、パートナーを待たせるものじゃないわ。許可をもらった、なんて言っていたけど、風紀委員長とはいえ、女子寮に男子がおいそれと来られないことは知っているでしょ?彼、ここに来る許可をもらえるまで結構粘っていたのよ?あたしが通りかかって一緒に行くからって言ってようやく許可がもらえたんだから。お邪魔虫はさっさと消えてあげるから、大河と一緒に早くいらっしゃい。先生には先に行って今から来るって言っておいてあげるから。」

…ずる休みするための口実はこれで打ち止めだね。お寝坊しちゃっただけとはいえ、ソフィーナちゃんが一緒に来てる時点で、その選択肢はもはやなくなっている。それに、ソフィーナちゃんの言うことももっともだ。大河君は私を心配してくれて、無理を言って来てくれたんだ。彼がそんな優しい男の子だって、入学以来ずっと一緒に過ごした私は知っている。…えへへ、嬉しいなぁ。

…だったら、これ以上お布団の上でだだをこねるわけにはいかないよね。

「二人ともごめんね、すぐ用意するから待っててー!」

私はお布団から飛び出して、身支度を整え始める。

今日も、お空は綺麗な青い色だった。


そんなこんなでお昼。

「…変な夢を見た?」

「…うん、泣いてる私が出てくるの。すごく悲しそうにしてるの。」

学食で、目の前のナポリタンに入っているピーマンをひとつずつ右手のフォークでいつものようにお皿の端に追いやりながら、私は朝の夢のことについて大河君に話す。

…実は、授業中にも少しだけお話はしていた。大河君が私を心配して、思念の会話でお話を振ってくれたのだ。思っただけでお話ができるって、こういうとき本当に便利だ。…たまに次のデートのこととかのお話をして、授業中だよ、って叱られたりしちゃうけれど。でも、なんだかんだでお話を続けさせてくれる大河君は、やっぱり優しいと思う。

「うーん、どうなんだろうね…疲れてるだけとかならいいんだけど…。やっぱり、プログレスの姿をした、ウロボロスを率いるものの出現が頻発してるのが関係してるのかな…。」

プログレスの姿をした、ウロボロスを率いるもの。

以前、レミエルちゃんの姿をした何かの出現を機に、何度も報告が上がっているもの。

彼らが何者なのかは、詳しくはわからない。

わかっていることは、青蘭学園に通うプログレスの姿をしていることと、たくさんのウロボロスを使役しているということだけ。

出現の度になんとか撃退してはいるけれど。

ーーーでも、彼女たちは強い。

以前、私たちがウロボロスの意識に乗っ取られてしまったとき、アルドラを通して取り込まれたプログレスの多くが、そのプログレスが元々持っていた力を遥かに上回る力を得ていたことがわかっている。だから、今のところ学園全体の見解としては、いつか私が大河君と海に行った時に遭遇した時のような、取り込んだものを転写し、ほぼ同じ力を持つものを造り上げる個体によるものではないか、ということになっている。…

ただ、この理屈では、記憶や力をトレースした可能性や、どうやってあれだけのエクシードに似た力を行使する力を得ているのかということはともかく、取り込まれていないはずのプログレスの姿を持つ個体まで確認されていることや、そもそも、その個体がどうして、ウロボロスに使役される側ではなく、ウロボロスを使役する側に回っているのか、ということまでは、まったくわかっていないのが現状だった。

大河君が口を開く。

「しかし、美海が泣いてる夢か…。正直、毎日笑顔しか見てない僕からすると、にわかには信じがたいけど…。」

うーん、と、腕を組んで考える大河君。それだけで、彼が私のことをどれだけ考えてくれているか、それがしっかりと、声を通さずとも伝わってくる。

(「やっぱり、疲れてるんだろうな…何かあればいつも出突っ張りだし、生徒会の仕事もあるし…。…無理しやすい分、僕がしっかり見ててあげないとな。」」)

…えへへ。

こんな男の子がアルドラで彼氏なんて、私ってやっぱり幸せ者だなぁ。みんなにちょっとだけ申し訳ないけれど、ここだけは絶対みんなには譲れないもんね。

考えていることの共有、これが、私と大河君が特別な関係であることの証。

恋人関係になっただけでなく、可能性解放と相互同調(クロスリンク)の成功というプログレスとアルドラのふたつの可能性の境地へと至ったことで、私たちの絆の強さというのは、きっと誰にも負けないものになった。

…確かに、私たちの周りにも似たような感じになっている子達はいる。それを考えると言い過ぎかもしれないけれど…でも、私が大河君を思う気持ちは本物で、彼が私を思う気持ちも本物だ。その事実は覆らないし、覆す気もない。

…そもそも当事者なのだから、このくらい言い切ったところで問題はないのかな、と思う。だって、このくらい言い切らないと、大河君が誰かに取られてしまうかもしれないから。強くて優しいし、かっこいいし、最高のアルドラだし…それだけで、彼を狙っている女の子たちはたくさんいる。もちろん、大河君が浮気なんてするはずないし、周りのみんなも私から彼を取ったりしないと信じてるけど。

だからこそ、私は彼の特別でありたい。言ってしまえば、ずっと彼の側にいたい、彼を独り占めしたいのだ。

…もちろん、大河君の側にいつもいられるわけではないのはわかっている。生徒会と風紀委員という異なる組織に所属しているだけでなく、ウロボロスとの戦いに参加できるアルドラの全員が全員、プログレスの最高もしくはそれに準ずるほどのポテンシャルを発揮させられるわけではない現状、大河君のような存在は当然貴重であるからだった。

だから、大河君は私以外に、他のプログレスとも同時にリンクする機会が非常に多く、私もそのことはわかっているが、たまに通信で彼にちょっかいを出そうとする子もいる

のが、ちょっと嫌だったりする。

…でも、そんな時、彼はいつもその子たちにこう言う。


「僕には、大事な人がいるから」


そしてその後、他のみんなには聞こえない、私たちだけの会話である思念の会話で、私にこう言ってくれるのだ。


「不安にさせちゃったね、ごめんね。

でも、僕の隣は美海しかいない。君じゃなきゃ嫌だから」


…いつも思うのだが、彼はどれだけ私に好きと言わせれば気がすむのだろう。

…いや、違う。

それは、それだけ私と大河君が深く繋がっている証拠。

だから、私は信じられる。

彼は、私の側にいて。

これまでも、これからも、ずっとずっと一緒だとーーー


そう思っていると。

(「…あれ、大河君、なんか悶えてる…?」)

目の前の大河君が、赤い顔でぷるぷる震えている。

(「…美海、その思考はまずい…僕の精神衛生上ほんとにまずいよ…。かわいすぎて思わず人目も憚らずに叫びたくなっちゃったじゃないか…!…明日休みだし、僕も美海も暇なはず…。二人でどこか出掛けるか聞いてみようかな…。気晴らしになればいいな…。」)

大河君の思考もこちらに完全に筒抜けになっているのに、こっちが聞いたら聞いたでこれまた嬉しくて悶えたくなるようなことを言っている。

…言ってくれてもいいのに。

みんなわかってくれてることだけど、ついでにちょっと恥ずかしいことだけど。

…でも、キミの特別でありたい私にとっては、大きな声で叫んでくれたら、これほど嬉しいことはないのにな。

「…よし。」

ようやく落ち着いたらしい大河君が、私に向き直る。

「美海、明日って…。」

「…もう、キミ、わかってて聞こうとしてるな~?」

先を読んで私が言うと、大河君は「…あはは、それもそうか…。」と頭を掻きながら言う。私はそれを見て答えた。


「うん、二人でお出かけしたいな…。いつかの海はいろいろあってそれほど長くいられな

かったし。今回は絶対一日キミを独り占めするんだからね!!」

私はにこにこ笑顔で、苦手なピーマンがきれいになくなったナポリタンをお口に持っていくのだった。


その日の夜。

「…えへへ。」

寮のお部屋に戻った私は、頬を緩めてお昼の会話を反芻していた。

明日は大河君とお出かけ。言ってしまえばデートだ。

お寝坊しないように早くお布団に入らなくてはと思うのだが…。

「…にゃ~、楽しみで眠れないよ~!!」

ベッドの上をごろごろ転がる私。そんな中で、私は大河君との出会いから今までを、頭の中に思い描いていたーーー


彼にはじめて出会ったのは、青蘭学園に来たばかりの頃。

寝坊して入学式に遅れそうで、頑張って走ろうとしていた私の耳に、

(「…まずいな…。まさかこんな日に寝坊するなんて…。千尋に起こしてもらってたのがこんなところで仇になっちゃったよ…。ここから走って間に合うか…?」)

…っていう声が聴こえてきたんだった。

ふと見ると、女子寮のお隣にある男子寮から一人の男の子が出てきてーーーまあ、それが大河君だったわけなんだけれど。それで、私はいきなり声をかけたのだ。

(「おはよう!ええと、もしかして新入生のαドライバーの人?ちょうどよかった!キミも遅刻しそうなんだよね?私に任せて!そんでもって、そのために私に力を貸して!」)


彼とはじめてリンクしたのは、その時だった。

…今思うと、本当に無謀なことをしたと思う。だって、はじめて会った人にいきなりアルドラでしょ、私とリンクして、なんて頼んで、なおかつ私はその時、お世辞にもエクシードをうまく使えるとは言えなかったのだから。 リンクによって、プログレスの力は飛躍的に跳ね上がることは知っていたけれど、何も知らなかった私がそれをきちんと制御できるかできないかは別問題なわけで。

…結論から言うと、私たちは思いっきり中庭の並木に墜落して、私は入学式に間に合ったものの、大河君は学園に着いた途端にお医者さんに行くことになってしまったのだった。彼とのリンクによって力が溢れだすのを感じてすごくテンションが上がってしまって、着地のこともアルドラの負担のことも考えないでお空を飛んじゃったんだよね…。


(「ーーーすごいすごい!アルドラとのリンクってこんなにすごいんだ!!

これならどこまでも速く飛べる、もう遅刻しなくて済むよ!!やったぁ♪」)

(「ーーーちょ、ちょっと待って、速すぎる、速すぎるって!!ね、ねえ君、ちゃんとふわっと降りられるんだよね?そうなんだよね!?」)

(「ーーーえっ…?降りる…あっ…。忘れてた…。」)

(「えぇ!?ど、どうすりゃ…って、どわぁぁぁぁぁっ!!」)

(「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」)


…私と大河君はそのまま並木に突っ込んで、αフィールドに守られていた私は制服が汚れるくらいで済んだんだけれど、大河君は、大きな怪我こそなかったけれど、葉っぱや木の枝による擦り傷や切り傷がたくさんで、そして木の幹に思いっきりぶつかった私が本来受けるはずだったダメージもフィードバックとして受けてしまって、私が体を起こしたときには声も出せずに悶絶していた。…その時は、大河君のアルドラとしての力…後に最高のアルドラと呼ばれる、はじめてのリンクであっても高いリンク数値を叩き出すイレギュラーケースであることも、アルドラがプログレスのダメージを受けることも知らなかったとはいえ、多分、あのときほどいろんな人に怒られたことって今までなかったなぁと思う…。

…でも、その時も大河君は優しかった。

次の日、お医者さんにお見舞いに行った私に、彼はこんなことを言ってくれたんだ。


(「ありがとう。僕は大丈夫だよ。それよりも、君が怪我がなくて本当によかった。…僕もごめんね、僕のアルドラとしての特性のこと、ちゃんと話してたら、こんなことにならなかったかもしれないのに…。」)


こんなことになったのは私のせいなのに。

すごく痛かったはずなのに。

それでも、彼は変わらない笑顔を私に向けてくれた。

私たちは、その時からお友達になった。

その時は、まだお友達以上の好意はなかったと思うけれど、ブルーミングバトル関連

の授業で自分のαドライバーになってくれる人を探すように、と言われた時、私は迷いなく、一緒のクラスになった大河君にお願いをして、彼は快く引き受けてくれた。その日から、私と大河君は、ただのお友達から背中を預けるパートナーになった。その後大河君が風紀委員…当時は第二風紀委員って呼ばれていたけれど…とにかく、風紀委員として活動することになったことで、そっちのお手伝いをする機会もあって、一緒にいる時間も増えた。

その中で、一緒に特訓をしたり、学園生活をしたり、ファントム事件やブルーフォール作戦といった様々な事件を解決するために一緒に戦ううちに、私はたくさんの大河君を見た。

彼は、私が何か失敗しても、今度はできる、一緒に頑張ろうと言ってくれた。

彼は、「誰かのためになるなら」と、率先していろんな仕事に取り組んで

いた。

彼は、敵も味方も、誰一人として見捨てることはなかった。ファントムとなってしまったプログレスたちや、ブルーフォール作戦における防衛戦で戦い、自分達を傷つけた緑の世界のプログレスやアルドラたちのことも。

そしてーーー彼は、いつも私を信じてくれた。

どんなに絶望的な状況でも決して諦めず、リンクで繋がっている私が勝つことを信じて、私に力を貸してくれた。

彼の周りにはいつしか人が集まり、私たちが戦うべき共通の敵として、世界水晶を破壊するために動くものたちーーーウロボロスが登場した後も、当初、いろんな意味でばらばらだったとも言える青蘭島と青蘭学園は、いつの間にかその度重なる侵略にも対抗できるだけの戦力を持つ堅固な学園要塞島となった。その理由のひとつに彼の頑張りがあったのだというのは、おそらく学園の中で文句を言う人は今となっては一人もいないだろう。


…そんな彼に、私は惹かれていった。


告白は私からだった。

緑の世界の侵攻を退けた後のあの日ーーー忘れられない、大切な日だ。

その時、彼に向かって思いを吐き出した私に、彼は自分も同じように、私のことをずっと見ていてくれたことを話してくれた。


(「ーーー僕で、本当にいいのかな…?」)

(「ーーーキミじゃなきゃ、嫌なんだよ…。それとも、キミは私じゃ、だめ…?」)

(「ーーーううん、ごめん、余計なこと言ったね…僕も、美海じゃなきゃ、嫌かな。」)

(「えへへ、私たち、似た者同士だね。」)

(「うん、本当にね…。」)


…今になって思うと、だいぶ恥ずかしい会話をしていたと思うけれど。

でも、後悔はしていない。

だって、それがあったから、今があることを知っているから。

その後、一気に縮まった距離によって、私と大河君は可能性解放を果たし、その後のファントム事件でも、彼の存在は私にとってすごく大きな力になった。

あの時、大河君は遥ちゃんたち第二風紀委員のみんなと一緒に藤平教頭先生のところに向かっていたから、私の近くにはいなかった寂しさはあったけれど。私だけじゃなくて、同時に他の女の子ともリンクしてたことになるから、ちょっと嫉妬のような気持ちも持ったけれど。

でも、大河君が近くにいなくても、リンクはきちんと繋がっていて。

彼から力が流れ込んでくる度に、私の気持ちは落ち着いて。

彼の帰ってくる場所を守りたい、そう思えて。

そしてーーー彼の帰ってくる場所が、今、私の側になっていると感じることができて、それが本当に嬉しくて。

帰ってきた大河君の胸に私が飛び込んだ時、彼と一緒にいた遥ちゃんたちは少し面食らってはいたけれど、私は空気を読むことすらしたくなかった。大河君も同じ気持ちだったみたいで、私たちは周りの視線なんて気にしないで、自分達の気がすむまで抱き合っていたのだったーーー


私は、むくっ、とベッドから起き上がり、おもむろに傍らのクローゼットを漁りはじめる。

明日、何を着ていこうかな…。

いつも私のお洋服を見て、似合うよ、かわいいよ、って言ってくれる彼だけれど。

でも、彼にたくさん見てほしくて、かわいいって言ってほしくて。

そう思いながらお洋服を選ぶ楽しさと、感想を言ってもらえた時のうれしさを、私は知っている。

だから、適当にその場にあったものを、という選び方をするわけにはいかない。というよりも、したくない。

せっかくのデートなんだもん、しっかりおしゃれして、かわいいって言ってもらいたいもんね。

ああでもない、こうでもないとクローゼットの中のお洋服と格闘しながら、その夜は

更けていったのだったーーー




解説編 第6回


(第1回~第5回は『Aile de Lien』各章にてご確認くださいです)

お話の中の時系列や原作との相違について

前作を含めた一連のお話は、アプリさんの方での「護世界の少女編」と同じ時系列、あるいはその後のお話にあたるかな、といったお話ではあるのですが、そちらとは内容はだいぶ違うことになると思うので(そもそも、Twitterさんなどでお話ししたことがあるのですが、ストーリーが完結していないうちに書いているので、今後どうなるかはわからないのです…)、きちんとしたお話を知りたいという方は、ぜひそちらの方にてご確認くださいです。

一応、今回における原作との相違を挙げさせていただくと、

・ブルーフォール作戦の後あたりから、美海ちゃんと大河君の関係が進展に進展を重ねていること(アプリさんでは、主人公(お名前はプレイヤーさん独自のお名前)と美海ちゃんの関係の進展はないに等しい)

・アプリさんのキャンペーンストーリー『美海の一番長い夏』に準ずるところ(海に行った時、ウロボロスさんに取り込まれかけたこと)の描写はあるけれども、こちらではアプリさんにおける主人公にあたる大河君との関係が進展している都合上、あまりアプリさんの設定や描写を深く掘り下げていない

といった部分があるのです。

また、ブルーフォール作戦やファントム事件に関しても、具体的にいつ、どの順番で、という設定はどうやらないようで(私が知らないだけかもしれないのですが)、そのためにだいぶ適当に順番を決めてしまったということがあるので、きちんとした順番をご存じの方は、そのことをご了承の上で、緩いお気持ちでご覧になってくだされば幸いなのです。


第1章 終

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