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  • 執筆者の写真Kokoro

『Aile de Lienー新たな絆と羽ばたく片翼ー』 Ange Vierge if episode vol. 1“Ramiel” 第7章

更新日:4月9日


前書き

Kokoroです。

この前書きを書いているのは、本編を書き上げてから二日後のことなのですが、すごく怖い夢…物語を書かせていただいている者としてはいろいろな意味で非常に怖い夢を見て飛び起きてしまって、不安に思いながらの前書きを書いていますです…あぅー…。

…さて、おうちのお仕事の合間に書かせていただいていたお話が、今回の7章にて最終章を迎えますです。最後までみなさんにお楽しみいただけるかどうか、かなり不安なのですが、最後までお楽しみいただければ幸いなのです。

では、本当に書きたかったフィナーレに続く第1の物語のクライマックス、はじまり、はじまり、なのです~♪


第7章 「悠久の絆、白き翼の奇跡」


「ーーー天羽さんーーー!!」

私は息を切らせながら、ものすごい音をたてて保健室の扉を開けた。

お見舞いにきていたのだろう。エルエルちゃんとユラちゃん、フェルノさんが、びっくりしてこちらを振り向く。それにも構わず、私はみなさんと同じようなびっくりした顔でこちらを見る天羽さんに目を向ける。

天羽さんーーー目を醒ましたんだ。

よかったーーー本当によかったーーー!!

私は天羽さんのいるベッドへと駆け寄り、そのまま天羽さんをぎゅっと抱き締めた。

「せ…先輩ーーー」

天羽さんがびっくりしているのにも構わず、私は彼の胸に顔を埋め、声を上げて泣きじゃくる。

「天羽さんーーー天羽さん…起きてます…夢じゃないです…!!起きなかったらどうしようって…ずっと…ふぇ…ふぇぇぇぇ…!!」

「ええと…その…先輩、僕は大丈夫ですからーーーだから泣かないで。」

天羽さんが、私に声をかけてくる。

天羽さんの体は、温かい。

その声が、温かさが、私をさらに安心させてくれる。

こんなにも安心させてくれる人が、果たしていただろうか。

大河さんも、美海さんもーーーこれほど安心させてくれただろうか。

ーーーいや、あの時よりも、もっとーーーもっともっと。

私は、嬉しい。本当に嬉しい。

心の中に空いた大きな穴が、急速に小さくなっていく。

ようやく気がついた。

私は、彼の声が聞きたかった。

彼の手を握りたかった。

彼と一緒にーーー生きたかった。

「ーーーわたくしたちは、お邪魔なようですわね。」

フェルノさんがそう言って、保健室を出ていく。それに続いて、エルエルちゃんやユラちゃんも保健室を出るべく、出入り口の引き戸へと足を向ける。

「ーーーレミエルちゃん。」

最後に出ていこうとしたエルエルちゃんが、私を呼ぶ。

その口が開いた。


「きっとーーー絶対、大丈夫だよ。 」

エルエルちゃんが、保健室を出ていく。

残ったのは、私と天羽さんの二人。

「ーーーあのーーー」

「ーーーええとーーー」

どちらともなく、私たちは話し出す。

「ーーーあ…ご、ごめんなさい…お先にどうぞです…。」

「い、いえ、僕こそごめんなさい…先輩から先に…。」

「いえいえ、ここは男性からの方が…。」

「いえいえいえいえ、青の世界にはレディファーストという言葉が…。」

「………。」

「………。」

そんなやり取りの後ーーーどちらともなく、私たちは吹き出していた。

「ーーー天羽さんーーー。」

ひとしきり笑った後、私は天羽さんに言う。

伝えなくてはいけない。

私の気持ちを。

あの時言えなかった、私の気持ちを。


「…私、不安でいっぱいでした。

あなたと私がお会いしてから、まだ一ヶ月にもなりません。

その中で、いろんなことがありましたよね。

お話を伺ったこと。

あなたと私がリンクを繋ぐことができることがわかったこと。

一緒に風紀委員や生徒会のお手伝いをしたこと。

はじめて一緒にブルーミングバトルで戦ったこと。

いつも、あなたは輝いて見えました。

優しくて、強くて、頑張り屋さんで、困っている人を放っておけなくて。

そんなあなたは、本当に眩しくて。

隣にいていいのか、私の方が迷ってしまうくらいでしたーーー

私が悪く言われている時に、かばってくださったこともありましたよね。

あの時はーーーすごく嬉しかった。

その後のブルーミングバトル。

あなたとのリンクは、心地よかった。

信じてくれて、嬉しかった。

あなたの可能性は私の可能性、そう感じることができたんです。

花火大会ーーー楽しかったです。

浴衣を買いにいって、一緒に電車に乗って、手を繋いで、林檎飴をいただいて、ミアちゃんを助けて。

ーーーその日も、あなたのことをたくさん知りました。優しいあなたを知りましたーーーそれでーーー」


「先輩ーーー」

今度は、天羽さんが口を開く。

「僕のことはーーー気にしなくて大丈夫ですよ。」

私の言葉を遮るように、彼は言った。


「僕のこと、心配してくださってありがとうございます。

僕も、出会ってから、先輩のことーーーたくさん知りました。

強くて、優しくて、みんなに慕われててーーー僕がリンクが繋げる相手がこの人でいいのか、なんて、本気で思ったくらいです。

特訓、楽しかったです。先輩たちのお手伝いも。ブルーミングバトルも。信じてくださったこと、僕も嬉しかった。この人を信じてよかったと思った。

浴衣、すごく似合ってました。この人と手を繋いでいいのかな、って思ったくらいです。

ーーーというか、最初からでした。

僕は、出会ったときから、あなたに惹かれていたんだと思うんです。

最初に逢ったときーーー僕は、本当に天使が現れたと思った。

話を聞いてくれる人なんて、ほとんどいなかったから。

どこまでも優しい言葉や行動で、元気づけてくれたから。

だから、僕は早く気持ちを伝えなくてはと思った。思ってしまった。

先輩のこと、何も考えずに。

絶対に困らせることになる、わかっていたはずなのに。

僕はあの黒い翼の先輩が現れて、先輩が僕のことを何とも思っていない、って言われたとき、苦しかった。本当に苦しかった。僕はやっぱりただのアルドラでしかないと思った。

でも、それだけじゃない。

あの時ーーーどこか安心している自分がいたんです。

僕は、自分に自信がありません。

焦って突っ走った、それは事実だった。

結果、先輩を困らせて、あの時はっきり言われてーーー僕があなたを大切にしたいと思う気持ちも、嘘や盲目ゆえの理想なのかもしれないと思ってしまった。

やっぱり僕はーーーあなたに相応しくない男なんですーーー」


「ーーー違いますーーー!!」


私は、場所も考えずに叫んでいた。

彼の言葉はーーー彼自身を傷つけるものだから。

彼は、そんな優しすぎる人だから。

ここで私がなにもしなければ、きっと、彼はその悲しい気持ちを心にしまって、今度は自分から、一人ぼっちになろうと思ってしまうだろう。

私を傷つけないために。

自分だけが犠牲になろうとするがゆえに。

そんな彼だからこそ、私は伝えたい。

私の気持ちを。

あの時の気持ちを。


「違いますーーー違うんです。

私はーーーあの時、私の気持ちが何なのか、それすらわからなかったんです。

だからこそ、答えるわけにはいかなかったんです。

適当なことを言って、未来のあなたを悲しませたくなかったから。

何も考えずに突っぱねて、今のあなたを悲しませたくなかったから。

さっき、私のお部屋に、アマノリリス様とガブリエラ様が来ました。

その時ーーー私は知ったことがあります。

私の力の源ーーーガブリエラ様の前任の四聖天使ーーーミカエル様のこと。

そしてーーーあなたの魂のこと。

あなたの魂の元の持ち主は、かつてミカエル様の愛した人であること。

だから、魂同士が強く引き合ってしまって、勝手にリンクが繋がってしまったこと。

それを聞いたとき、私はもっと不安になりました。

あなたへの気持ちがーーーあなたといて嬉しいと思う気持ちが、私の気持ちじゃないかもしれないーーーそう思ったから。

でも、ガブリエラ様はそうは言わなかった。

不安に思う気持ちは、私が私である証。

私はレミエル。ミカエル様ではない。

高く、自由に飛びなさい。私に力を与えたミカエル様がそうしたように。

ガブリエラ様は、そう仰ったんです。

だから、私はここにいるんです。

あなたに伝えたかったから。


私の気持ちは、私のもの。

私はーーー私は、あなたと一緒にいたいーーー

だからーーー」


私は、頭が真っ白だった。

自分の言っていることすらもわからない。

自分が何をしているのかもわからない。

何も見えない。何も聞こえない。

ただ、ひとつだけわかることがある。

私は、天羽さんが好き。

彼と一緒にいると、温かい気持ちになる。

胸が、どきどきする。

彼と一緒にいたい。

彼に、私を捕まえてほしい。

彼の温もりで、私を包み込んでほしい。

私と、一緒に生きていってほしいーーー

私はーーーこの気持ちを伝えたい。

言葉だけではなく、私の全部でーーー


ーーー一瞬、私の唇が、何か柔らかいものに触れる。


気がつくと、彼の顔が、すぐ近くにあった。

驚いた顔をする天羽さん。

その顔は、さわったらやけどしてしまうのではないかというくらいに赤い。

それでもーーー私は止まれなかった。止まりたくなかった。

それが私の気持ちだから。

私自身が、この人を欲しているから。

私は、天羽さんに言う。


「ーーーこれでもーーーあの私の言葉が真実だってーーーそう思いますか?」



「先輩ーーー」


天羽さんが、私に手を伸ばす。

そう思うと、彼の手が止まった。

「天羽さんーーー?」

その手を伸ばし続けてほしいのに。

私が声を出すと、天羽さんは言った。


「ーーー僕はーーーまだ、怖いです。夢じゃないのかと思うんです。

さっき、先輩は言いました。

僕の魂が、先輩の魂と引き合った、って。

僕の気持ちもーーーかつての魂の持ち主の気持ちじゃないと言えるんでしょうか?

もしも、僕の気持ちじゃなかったらーーー先輩はきっと悲しむ…。

そうなったらーーー僕はきっと、今度こそ自分を許せないーーー」


彼の言葉の最後は、震えていた。

その声から感じるのは、不安。

私が持っていたものと同じ。

私は、その不安を受け止めなくてはならない。

彼を愛した者として。

彼に愛された者として。

かつてーーーミカエル様が、彼の元の魂の持ち主を、最後まで愛し続けたように。

私は、今度は自分から、彼をぎゅっと抱き締めて言う。


「ーーーそれで、いいと思うんです。

私もまだ、自分の心なのか、ミカエル様の意識なのか、よくわかってはいないんですから。

でも、それでいいと思うんです。

だって、恋をすることは、盲目になることだから。

合理的な恋なんて、ありえないんですから。

ミカエル様だって、あなたの魂の元の持ち主だって、そうだったと思うんです。

天羽さんーーー仰っていましたよね?

翼を失った天使は、神様に嫌われたんじゃない。

神様は、彼らの願いを聞き入れて、彼らの見据える未来へと送り出す、それが、堕天

という言葉なのではないか、って。

私は、それを信じたい。

あなたの、その言葉を信じたい。


だってーーーそれこそが、私の信じたい、希望の言葉だから。

あなたが教えてくれたーーー私の可能性だから。

そしてーーーそんなありのままの私を、あなたは好きになってくれたから。


だから、私は片翼でもいい。自分の心がわからなくてもいい。

完璧じゃなくても、綺麗じゃなくても。

それがーーー私の力だから。可能性だからーーー」


「先輩ーーー!!」

天羽さんが、私をぎゅっと抱きしめてくる。

少し苦しい。でもーーーそれが、本当に心地よい。

「先輩ーーー好きですーーー大好きです…!!

あなたがいない世界なんて、もう考えられないーーー考えたくない…!!

僕はーーーあなたと一緒にいたいーーー

あなたと、もっともっと触れあいたいーーー

この世界でーーーあなたと一緒に生きたいーーー

あなたと僕の未来の可能性をーーーあなたと一緒に見たいーーー!!」

天羽さんは涙を流しながら、私の腕に抱かれて泣きじゃくる。

今まで、どれだけの思いで、この気持ちを抱え込んできたのだろう。

私は、天羽さんに言った。


「ーーー翔さん。」


びっくりした顔で、私を見る天羽さんーーーいや、翔さん。

私は、さらに続ける。


「あなたもーーー私を呼んでください。

先輩、じゃなくて、レミエル、って。」


「ーーーレミエルーーー」


翔さんが、私を呼んだ。

レミエル、と、呼んでくれた。

私はーーー彼をぎゅっと抱きしめる。

天羽さんも、ぎゅっと抱きしめ返してくる。

ーーーもう、放さない。

私と翔さんの手を。

そしてーーー悠久の時を越えて、再び重ね合わせた手を。


ーーーどのくらいそうしていただろう。

学園いっぱいに鳴り響くほどのアラート。それと同時に、

『ーーーエマージェンシー!!青蘭島北側にウロボロスの発生を確認、数は50ーーーいえ、100ーーーまだ増え続けています!!うち1体はーーーEXRレベル…!!さらに、SRレベルの個体も多数!!ただちに、全プログレス、及びαドライバーは、非戦闘員の避難誘導、及び迎撃に当たってください!!』

青蘭島全土に張り巡らされているはずの放送から、ユフィさんの声が聞こえる。

「翔さんーーー」

「ーーー間違いない、きっとーーー」

ーーー彼らを統率しているのは、あの黒い翼の私。

「翔さんーーー」

「レミエルーーー」

私たちは、どちらからともなく目を合わせる。


「以前の私はーーーあなたの痛みを知らなかったーーー」

「僕もーーーそれを知らなかったーーー」


『ーーーだから、今度はきっと受け止める。

お互いの痛みを。

体も、心も、何もかもーーー』


私たちの声が、重なる。

これは、誓い。

私たちは、もう、一人じゃない。

私は、翔さんのために。

翔さんは、私のために。


『ーーーエクシードーーークロスリンクーーー!!』


翔さんのリンクと同時に、私もリンクを繋ぐ。

瞬間ーーー私と翔さんの全身から、金色の光が迸った。

ひとつになっていく。

手を繋いだ私と翔さんが。

彼との絆が。

もっと深くーーーもっともっと、深く、深く。

金色の左の翼が、私の背中に現れる。

それと同時に、白いはずの私の右の翼が、左の翼と同じ、まばゆく輝く金色へと変わる。

両の瞳がーーー熱い。

左の瞳でだけ経験してきた、この熱さ。

翔さんの温かな日の光のような、そして時には炎のように熱く燃える心を体現したような、そんな熱さを宿す、私の両の瞳。


(『行こうーーーレミエル。』)


私の心に、翔さんが直接語りかけてくる。

彼はーーー私と共に行く。私と共に戦う。


「はいーーー行きましょう、翔さんーーー」


おそらく、誰かが開けておいたのであろう、保健室の窓。

私は、開け放たれた大きな窓から、外に向かって飛び出す。

天羽さんと共に。

彼と一緒にーーー同じ空を飛ぶために。


(another viewing“Miumi ”)

…正直、辛いかな。

ソフィーナちゃんと背中合わせになりながら、私は心の中で思った。

『くそ…出てくる場所はわかってるのに…二人とも、まだいける?』

イヤホンから、私たちとリンクして、なおかつ全体の管制も行っている大河君が呼びかけてくる。

「大丈夫…ここから先はーーー絶対に通さないよ。」

私はそう言うがーーー

(『-ーー無理しないで。一応、美海の心の声は筒抜けなんだから。』)

私にしか聞こえない声ーーー可能性解放を行ったプログレスとαドライバーのみが行える思念の会話で、大河君が私に直接声をかけてくる。

(「あはは…わかってたか…。大河君、こうなったら、クロスリンクをーーー」)

『相互同調(クロスリンク)』。

αドライバーとプログレスが相互にリンクを繋ぎ合い、お互いの痛みや心の動きを共有することによって、ひとたび攻撃を受ければ二人とも倒れる可能性があるという高いリスクと引き換えに、爆発的なリンクレベルを叩き出すというもの。

かつて、ウロボロスによるαドライバー封印事件において、プログレスの側からリンクすることで、当時αドライバーであった天音ちゃんを救いだすことに成功し、なおかつ、復活した天音ちゃんからもリンクを繋ぎ、当時UCレベルであったチーム天音のみんなを、一気にEXRレベルまで押し上げることに成功したという、可能性解放に続く、プログレスとαドライバー、双方の可能性の境地。

だが、今のところ、成功例はチーム天音のみんなの例以外では、私と大河君が成功したきりーーーお互いのリンクの干渉による増幅でリンクレベルを爆発的に押し上げることができうる反面、少しでもお互いのリンクの波長がずれれば、その干渉の波はお互いに打ち消し合い、なおかつプログレスとαドライバー双方が痛覚を共有しているがゆえに、自分達を危険にさらしかねないという諸刃の剣。

大河君が、私に言う。

(『ーーーいや、敵の出方がわからない。規模も何もかもだ。しかも、今はソフィーナにもリンクを割いてる。今僕たちがクロスリンクをすれば、αフィールドなしのソフィーナを敵の真ん中に孤立させることにもなりかねない。リスクが高すぎる。』)

(「でもーーーこのままじゃ…」)

(『もう少しでルビーとセニアが到着する。アウロラやユフィ、それから風紀委員組も、演算や絶対守護が固まって、マユカや紗夜たちのいる最終防衛ラインが構築でき次第、そっちに向かわせる、それまで持ちこたえて!!』)

(「ーーーわかった、じゃあ、そっちは任せるね。」)

私はそう言って、周りを見回す。

私とソフィーナちゃんが、囲まれている。

「ああもう…鬱陶しいったらないわね!!」

ソフィーナちゃんが悪態をつきつつ右手を思いきり払った瞬間、そこから雪崩のごとく炎が噴き出して、正面のウロボロスの大群をまとめてなぎ払った。同時に、私も風纏いし細剣(ウインドレイピア)を握った右手を、正面のウロボロスに向かって一気に突き出す。ウロボロスの固いはずの体を、まるでお豆腐に突き刺したように白銀の細剣が軽々と突き通し、刀身に纏った白銀の旋風が、鎌鼬のように私の周りの空間を一思いに切り裂き、その場にいたウロボロスをまとめて消し飛ばす。だが、目算にして二十体程度なら軽く越えるであろうウロボロスたちを一撃で倒してもなお次々に現れる後続に、私たちは本当の意味で追いつめられつつあった。

私たちーーーEXRのプログレスが二人、なおかつ大河君とのリンクであれば、一体一体の強さはそれほどじゃない。でも、数の差は如何ともし難い。SRレベルの個体すら多数いる中でここまで持ちこたえられているのは 、本当に幸運という他ない。

押しては返す波のように何度となく押し寄せるウロボロスの大群。その時、ソフィーナちゃんの炎を掻い潜ることに成功したらしい一体が、無防備になった私の背中に向かって一直線に襲いかかった。

『ーーー美海ーーー!!』

大河君が叫ぶ。私は条件反射で細剣をなぎ払い、襲ってきた一体を振り向きざまに斬り飛ばす。だが、それを待っていたと言わんばかりに、周りのウロボロスが束となって、再び無防備になった私に向かって、その拳を、牙を、数々の武器を突きだした。

「ーーー!!」

回避は不可能。受け止めるのも不可能。ソフィーナちゃんが援護をしようにも、風を巻き起こしてまとめて吹き飛ばそうにも、今からではとても間に合わない。

ーーー大河君ーーー!!

私は目をぎゅっと瞑る。

きっと、次の瞬間には、イヤホンから、フィードバックの激痛に必死に耐える大河君の声が聞こえてくるだろう。

大河君ーーーごめんーーー


ーーー?

私は、うっすらと目を開ける。

周りのウロボロスが、止まっている。

空を見上げて。

まるでーーー天から下りる光の階段を上り始めようとするかのように。


見上げた先にはーーー金色に輝く光の翼。


その翼から抜け落ちるように金色の光の羽根が舞い踊りーーー次の瞬間、その無数の光の羽根が、私たちを取り囲んでいたウロボロスに向けて一気に襲いかかった。まるで意思を持っているかのように飛び回る光の羽根は、羽根とは思えない鋭さを以て、ウロボロスたちの体を軽々と貫き、次々と光に変えて脱落させていく。


「美海さんーーーソフィーナさん!!」


幾度となく、私の背中を守ってくれた彼女の声が。

蒼穹の彼方から、一直線に舞い降りてきたーーー



「ーーーレミエルちゃんーーー!!」

空から舞い降りた私を見て、美海さんが声を上げる。

「お二人とも、大丈夫でしたか!?」

私はお二人に声をかける。

「う、うん、私たちは大丈夫…ありがとう、また守ってもらっちゃったね。」

「でもーーーレミエル、あなた、その姿ってーーー」

ソフィーナさんが、心底驚いたという顔で私を見つめる。

『レミエル、そこにいるの!?』

お二人のイヤホンから、大河さんの驚いた声が聞こえてくる。

『レーダーになんかすごい反応が学園の方から飛んできたと思ったけど…なんてこった、覚醒状態をすっ飛ばして、いきなり可能性解放状態…しかもリンクレベル数値、オーバー300!?僕と美海がだいぶ前に叩き出した可能性解放クロスリンクと同じくらいの数値じゃないかーーーまさかーーー』

「レミエルちゃんーーーもしかしてーーー翔君とクロスリンクを…!?」

『美海、そのもしかしてみたいだ。天羽君とレミエルのリンクの干渉波の増幅をユフィが確認してくれた。…二人とも、どうやら、やってくれたみたいだね。』

大河さんの声が、幾分か弾んでいる。

私は、美海さんとソフィーナさん、そして聞いているであろう大河さんに向かって言った。

「美海さん、ソフィーナさん、大河さん。私と翔さんは、これからウロボロスの中心を押さえに行きます。」

「じゃあ、私たちもーーー」

美海さんが言う。だがーーー

「ーーーいえ、ここは、行かせてください。私たち二人で行かなくてはならないんです。」

『ーーーレミエル。何か、思うことがあるんだね。』

私にそう言った後、大河さんが、方々に指示を飛ばし始める。。

『ーーーよし、わかった。頭を押さえるのは、二人に任せる。二人とも、頼んだよ。

美海、ソフィーナ、ルビーとセニアがあと2分くらいで合流できるらしい。それまで二人は、レミエルと天羽君をできる限り援護してあげて。ルビーとセニアが到着した後は、有象無象の方を牽制して引き付けつつ第二防衛ラインまで後退、アウロラとユフィ、それからカレンはそこで美海たちと合流して。それからーーー遥、聞こえてるね?風紀委員組は、美海とソフィーナ、それからルビーとセニアが後退し始めたら、島の左側から迂回しつつ、第2防衛ラインの左翼に展開。美海たちはアウロラたちと合流後、そのままの位置で第2防衛ラインの右翼として動いてほしい。マユカ、生徒会組と風紀委員組が左右に展開できたら、第三、及び最終防衛ラインは前進、そのまま、鶴翼陣形で敵を包囲、殲滅するっていう作戦で行く。いいね?』

「当然!大河君、いつでもいいよ!!」

美海さんの声が響く。


『ーーーよし、じゃあ行くよーーー

迎撃作戦ーーー開始(アンブッシュミッション、スタート)!!』


「よーし、それじゃーーー遠慮なく、行くよーーー!!」

大河さんの号令が飛び、美海さんの手の中の細剣の切っ先が、くるり、くるり、と宙を舞う。それに呼応するように、ごおっ、と強い風が吹いた瞬間、ソフィーナさんが、その風に乗せるがごとく巨大な炎を巻き起こした。美海さんとソフィーナさんの見事な連携(オルタネイト)によって生み出された巨大な紅蓮の旋風は、前方に展開したウロボロスの波の真ん中を一直線に貫き、私たちの進むべき道筋をまっすぐに指し示す。

「レミエルちゃん!!翔君!!」

美海さんの声が私たちを呼ぶ。

「ーーー行きましょう、翔さん!!」

(『うんーーー行こう、レミエル!!』)

私たちは、空いた穴の真ん中に向かって、一直線に飛び出した。

私の翼は、最初に翔さんとリンクした時とも、はじめてブルーミングバトルを一緒に戦ったときとも、ましてや大河さんとリンクしていた時とも比べ物にならないほどに軽く、大きく、より多くの風を捉え、そして、どこまでもどこまでも加速する。時折、周りから有象無象が湧き出すが、私たちは避けない。避ける必要すらない。金色の双翼が、ウロボロスが私たちに近づく側から、それらをすれ違いざまに片端から切り裂いていく。


ーーー見つけた。


私は金色に輝く両の瞳で、目の前をまっすぐに見つめる。


「ーーーようやく来たのね。待ちくたびれちゃった。」



黒い翼の私の虚ろな両の瞳が、こちらを見て不気味に微笑む。

私は翼で風を捉えて制動をかけ、黒い翼の私と真正面から向き合う。

「あらーーー前とは何か違うみたい。」

黒い翼の私が、驚いた顔をして言う。

「私と翔さんは、もう一人一人じゃないから。」

私は、目の前の私をしっかりと見つめて言う。

目の前の私は、私自身。

かつて、弱さを弱さとしか見ることのできなかった、そんな私自身。

そんな弱い自分には、もう負けない。負けたくない。

「ーーーそう。ならーーーぜひ私を止めてみせて。

あなたたちの言う薄っぺらい可能性ーーー私が今度こそ、全部なかったことにしてあげる。」

「できるものならーーーやってみなさい!!」

私は再び、翼を大きく羽ばたかせて一気に加速する。同じように、黒い私も広げた翼を羽ばたかせ、急接近する私を真正面から迎え撃つ。

お互いの持つ長杖が一瞬交錯し、その後弾かれたように距離を取る。鋭い金属音と共に、私と黒い翼の私の間に火花が散る。勢いを殺すことなく宙返りをして体勢を立て直した私は、長杖を握る右手をまっすぐに、黒い翼の私に向かって突き出す。瞬間、再び翼の先端から、金色の羽根がはらり、はらりと宙を舞ったかと思うと、先ほどウロボロスの大群を一掃したときのように、それらは一斉に黒い私へと襲いかかった。黒い翼の私はそれをちらっと確認するが早いか、あちらも手にした長杖を鋭く横に払う。それだけで、金色の羽根は長杖がまとった風によって、その多くが光となって吹き散らされた。それを逃れた金色の羽根が彼女を追うが、黒い翼の私は大きな弧を、そして時には急制動をかけながら小さな螺旋を描き、さながら華麗にステップを踏むかのように飛び回り、それらのことごとくを振り切って、私との距離を一気に詰めてくる。再び肉薄した私たちは、今度は鋭い剣と化したお互いの翼を、同じように剣となったお互いの翼へと叩きつける。鋭く ぶつかり合った私の金色の左翼と彼女の黒い左翼との間に、バチバチっ、と、激しく紫電が散った。そのままつばぜり合いになったとき、私は右手の長杖を彼女に向ける。彼女もまた、私に向かって杖を向ける。二本の長杖の先端が同時に火を吹いた。中央でぶつかった金色の光と漆黒の闇は、凄まじい爆音を響かせて、私たちを逆方向へと吹き飛ばす。αフィールドに守られていた今までとは比べ物にならない衝撃と、爆発によって生じた熱気が体を焦がすような熱さと痛みが、その痛みを経験したことのない私の全身を襲った。

「ーーーくっ…翔さん、大丈夫ですか?」

吹き飛ばされながら、私は翔さんへと声をかける。

(『ーーーありがとう、ちょっと痛かったけど、大丈夫。レミエルは?』)

「私も、大丈夫です。」

(『そう…でも、無理だけはしないで。』)

…心の中に直接響く翔さんの言葉が、私を包み込んでくれる。

自分も痛いはずなのに、私を案じてくれる。

だから、私は答える。

「大丈夫ですーーーあなたと一緒だから。あなたの痛みを私も分かち合うって、決めたから。」

翔さん。

あなたの痛みは、私の痛み。

それを、私たちは、共に分かち合うことを誓った。

だからーーーこんな痛み、へっちゃらです。

あなたが以前、私に言ったように。

あなたが以前、私を信じてくれたように。


「ーーーどうして?」


黒い翼の私が、驚いたような、呆れたような、しかしどこか悲しそうなーーーそんな顔を私たちに向けてくる。

「どうして?どうしてそんな顔ができるの?

あなたは地に堕ちた天使ーーー絶望しかできない、それを振り撒くことしかできないはずなのにーーー

なのに、どうして。

どうして信じるの?どうして信じることを止めないのーーー!?」

彼女が発したのは、耳をつんざくような叫び声。

それと同時に、彼女の両目から涙が溢れ、頬を伝って落ちていく。

ーーーああ、やっぱり。

彼女は、ウロボロスを率いていても、ウロボロスじゃない。

彼女は、私だ。あのときの私だ。

自分にも、世界にも、生きることにも絶望していた。

そんなーーー私そのものだ。

彼女は、どうして泣いているのだろう。

どうして、彼女は私の前に立ちはだかっているのだろう。

ーーーいや、私にはわかっている。

過去の私には、救いはなかった。

ただ、その場にいて。

ただ、その場で生きていて。

生かされていて。

翼が片方ないだけでいじめられて。

それだけで、そんな世界はいらないと思い込んでいて。

この世界に来るときも、ガブリエラ様から捨てられたと勝手に勘違いして。

だから、彼女は私たちの前に立ちはだかる。

彼女は、私だから。泣くことしか知らなかった時の私だから。

彼女の前に立ちはだかる私は、自分が知らない自分だから。

そんな私を認められないから。認めたくないから。

私は、彼女に向かって言う。

「ーーー自分自身に、向き合うことができ

たから。

この世界に来てーーー友達ができて、いろんなことを教えてもらって。

そしてーーー私じゃなきゃだめなんだ、って、言ってくれる人がいたから。」


彼女から見た、今の私。

それは、どういうものなのだろう。

彼女は、私を見て、何を思っているのだろう。


彼女が、どうして、というもの。

それは、きっとーーー笑顔。

友達と、そして恋人と一緒にいることができる、この世界に生まれてきたこと、出会えたこと。

私はーーー今の私は、それが本当に嬉しい。

今、私と彼女がぶつかり合っているのは、命のやり取りのはずなのに。

私は、笑顔を向けていたのだと思う。

今、彼女が言った言葉。

どうして、信じていられるのか。

私は、目の前の私に向かって、胸を張って、そう答える。

この世界に来て、私は知った。

弱さに向き合う方法を。

弱さを肯定してくれて、それを強さと言ってくれる人がいることを。

そしてーーーそんな私を、心から愛してくれる人の存在を。


ガブリエラ様ーーー私、わかった気がするんです。

どうして、あなたがこの世界に行けと言ったのか。

あなたには、きっとわかっていたんだと思います。

私が、この世界で翔さんと出会い、恋に落ちるということを。

彼と私が一緒に過ごす未来を。

かつて、あなたに後を託した彼女がそうだったように。

翔さんが倒れて塞ぎこんだあのとき、あなたはこう言いました。

その翼で、高く高く、自由に飛びなさい。

でも、私はレミエル。ミカエル様とは違う。

ミカエル様は、愛する者を守るために、自身の命を燃やし尽くした。

でもーーー私は、私と翔さんは、そうじゃない。

守るために自分を捨てる、そんなことはしたくない。

どちらかが欠けてしまっては、残されたどちらかは、きっと生きていけないと思う。

ゆえに、私たちは手を取り合う。ひとつになる。

健やかなる時も、病めるときも。

命尽きるその時まで、私たちは二人でひとつ。

それが、私たちの誓いーーー


『レミエルーーーそうです、それでいいのですーーー』

声が聞こえる。

翔さんとは違う、穏やかな、でも、私の知っている、聞いたことのある声が、私の心の中に、直接語りかけてくる。

『ーーー私は、彼のいる世界を守りたかった。でもーーー私も、アマノリリス様やガブリエラと同じように、力を傲ってしまった者の一人でした。彼と一緒に手を取り合い、二人で私の愛した赤の世界を救う、その考えが、私には浮かばなかったのですから。

その結果、私は世界の平穏と引き換えに命を落としました。そしてーーー彼を私のいない世界へと一人残し、彼には、本当に悲しい思いをさせてしまいました。

でも、あなたはーーーそしてあなたの愛する人ーーーかつて私が愛した人と同じ魂を持つ彼はーーーそうではなかった。

共に手を取り合い、お互いのすべてを分かち合い、いつまでも共に生きることを誓うーーーあなたたちは、私の思いもしなかったことを、見事に実現してみせたのです。

確かに、あなたの愛する人が、私がかつて愛した人の魂を持ち、悠久の時を越えてあなたと彼が出会ったことを、私は運命と感じたこともありました。それゆえに、彼と再び手を取り合いたい、そう思ってしまったこともありました。それゆえに、あなたと彼を傷つける結果になってしまって、あなたと彼には、本当に申し訳ないことをしてしまいました。

私は、この世にはもういない者。この世にいない者が、生きとし生ける者たちに干渉することは許されない。わかっていたはずなのに。それでもーーー自分自身の彼に向ける愛情によって盲目であった私は、彼に向かって手を伸ばす以外を思いつくことはできませんでした。

でもーーーガブリエラはあなたに言いましたね。

あなたはあなた。私ではありません。

ならばーーーあなたに力を託した者として、そして、同じ魂を持つ者を愛した者として、私はあなたに力を貸しましょう。

忘れないで。

私の力は、すでにあなたのもの。

それをどう使うも、あなたの心次第。私の意思は、もはや関係のないもの。

あなたの翼は、あなたが愛する彼と共に、空を飛ぶためのもの。

遥かなる蒼穹へと、羽ばたきなさい、レミエル。

どこまでもどこまでも、彼と共に、高く、高くーーー』


声が、すぅっ、と、虚空へと消えていく。

それと同時に、私の中から、爆発的にせり上がってくるものがある。

包み込むように温かく、時には炎のように熱い、そんな気持ちを体現する力ーーー翔さんとのリンクと同じような、そんな、心のうちから沸き上がる力。

ミカエル様ーーーありがとうございます。

でもーーーあなたはこの世にいない者じゃありません。

あなたはーーーかつてこの世に存在した者。

私と共にこの場に立って、翔さんと共に、私に力を貸してくれる人。

私の中に、あなたは確かに存在しているんです。

私は、私の中にいるあなたを、否定しない。したくない。

あなたのすべてを受け継いだ者だから。

あなたの優しい魂をも、私は受け継いだ者だから。


「ーーー向き合う…友達ーーー?そんなことはしたくない…友達なんて、そんなものいらない…!!ユラちゃんだって、エルエルちゃんだって…きっといつか私を捨てるーーー大河さんだってーーーあの人だって!!」

ぼろぼろと涙を流しながら、黒い翼の私は、何か恐ろしいものを振り払おうとするように、激しく首を振りながら叫ぶ。

「そんなことないーーーそんなことないの…。

あなたは知らないだけなの…見てくれる人はいるの。

それは神様じゃなくてもいいの。友達じゃなくてもいいの。

あなたを信じてくれる人、その人を信じればいいのーーー

私は、神様のお側から離れた天使。

翔さんが言っていたの。彼らは、希望を持って送り出された。

彼が、私にその言葉をくれたの。

ガブリエラ様が教えてくれたの。私の魂に宿る人ーーーミカエル様は、アマノリリス様に許可をもらったって。彼女は神様に追い出されたんじゃない、自分の意思を尊重していただいたんだって。

私は、それを信じたい。

私の故郷ーーーテラ・ルビリ・アウロラが、温かな世界だって。

そこに生まれた私は、きっと翔さんと会うために生まれて。

翔さんと会うために、ここにやってきたんだってーーー」

私は、彼女に向かって、優しく言葉を紡ぐ。

「嫌…嫌だ…信じるのは嫌…怖いーーー怖いーーー」

「怖がらないで、手を伸ばし続けて!!あなたがーーーあなたが信じることのできるものにーーー信じたいと思える人に!!」


「ーーーならーーー」

黒い翼の私の涙腺が、限界を超えた。

「ーーーだったらーーーあなたが私を助けてよーーー

私に希望があるなんていうならーーーそれを見せてーーー

あなたが希望というならーーー私を助けてよーーーお願いーーー

ーーーでも、そんなことはできないーーーできっこないーーー」


ああ、そうか。

私は、なんとなくわかった。

この私は、わからないんだ。

人への甘えかたも。

人に向けられる愛情も。

何もかも、わからないんだ。

私は、強い意思を持って、彼女に言う。


「わかりました。

私は、あなたをーーー私のことを、助けたい。

苦しむ私を、泣いている私を。

だからーーー私はあなたを助ける。

ミカエル様から受け継いだ奇跡の力ーーーその目にしっかり焼き付けてーーー」


私の翼が、両の目が、光を増す。

力が、溢れてくる。

翔さんとのリンクが。

ミカエル様の優しい心が。

私に、力をくれる。

泣いている子を救ってあげてーーー奇跡を起こしてあげて。そう叫んでいる。


大天使様の力ーーー私の声にーーー応えて!!


その瞬間、金色の光が、辺りを包み込む。

何かが爆発したような、そんな凄まじい力の奔流。

(『行くよ、レミエルーーー制御は任せて!!』)

私の中にいる翔さんが、私に呼びかけてくる。

私は、それを信じる。

彼はーーー私が選んだパートナー。

彼が力をくれる。暴走してしまいそうな、そんな大きな力のすべてを束ねて、私の力に変えてくれる。

私は、翼を羽ばたかせて飛ぶ。

彼と共に、晴れ渡る蒼穹を、どこまでも、高く、高く。

私は、長杖を思いきり振りかぶる。

その先にいるのは、泣きじゃくる黒い翼の私。


「ーーー泣いている誰かを、助けるためにーーー」

『ーーー希望の道筋を、指し示すためにーーー』


『涙も、怖さも、呑み込んでーーー「勝利に至る導きの奇跡」ーーー!!』


私たち声が、ぴったりと重なる。

私と翔さんの動きも、ぴったりと重なる。

私は、振り上げた長杖を思いきり振り下ろす。

瞬間ーーー私の握る長杖から、金色の光を纏う巨大な津波とも言うべき力の奔流が、天空から一気に流れ下った。

同時に、泣きながら何かを叫んだ黒い翼の私からも、漆黒を纏う闇の津波が、その光を飲み込まんとするように向かってくる。

あの闇は、私の心の闇。

絶望に溺れた私が、 心のうちに宿していたもの。

あの子は、泣いている。

暗いところは、怖い。

友達がいないのは、寂しい。

叩かれたら、痛い。

誰かに愛されないのは、悲しい。

でもーーー私はーーー私たちは、知っている。

闇を照らすのは、光。

手を伸ばした先にあるものは、希望。

私は、私の心の闇を、光を以て打ち払う。

自分自身と。

かけがえのない友達と。

そしてーーー共に生きると誓った愛する人と一緒に。

伸ばした手の中に掴んだ、一筋の光で。


光と闇が、正面からぶつかる。

光によって闇が包み込まれ、眩い金色の光が辺りを照らす。


(「ーーー温かい光ーーー温かい力ーーーこんなのーーーはじめて。

これが、あなたの心の光なのかな。

それとも、天羽さんの?

ミカエル様の?

ーーーううん、そんなの、なんでもいい。

だって、優しいから。温かいから。

ありがとうーーー私。

あなたが愛した私を救ってくれてありがとう、天羽さん。

私をこの世界に向かわせてくれて、

本当にありがとうございます、ガブリエラ様ーーー 」)


黒い翼の私が、光に飲み込まれる。

その刹那ーーー黒い翼の私がそう言ったのだろう、

きっとそうなのだと、私には思えたのだったーーー


クロスリンクを解除し、通常のリンクに戻した後、私と翔さんは、手を繋いで学園のグラウンドに降り立つ。

「レミエルちゃんーーー翔君!!」

美海さんが、私たちの方に走ってくる。大河さんやフェルノさん、ソフィーナさん、エルエルちゃんやユラちゃんの姿もあった。

「天羽君ーーーすごいよ、本当にすごいーーーもう、大丈夫だね。レミエルのαドライバーは君だけだーーー君しかいない。レミエルと君の可能性ーーーよく信じ続けたね。」

大河さんが、翔さんに向かって言う。

「ーーー風渡先輩。」

翔さんが、大河さんに言う。

「僕は、決めたんです。レミエルと一緒に生きるって。」

「はうっ…!!か…翔さん…あの…みなさんの前で言われると恥ずかしいんですが…。…嬉しいですけど。」

いきなりの爆弾発言にびっくりしながらも言う私。

「…あれ?二人とも、呼び方ーーーそれに、一緒に、ってーーー」

「ーーーエルエル、それ以上はいけません。」

「そうですわ、エルエルさん。そもそも、レミエルさんに保健室で、大丈夫、と言っていらしたでしょう?」

「ーーーえ?え?どういうこと?というか二人とも近くない?一体何があったの!?ねぇ、何が何してどうなってるの?」

エルエルちゃんが、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる中、フェルノさんとユラちゃんが宥めに入っている。

「ーーーあぁ…なるほどね。二人とも、本当におめでとう。」

大河さんは、なんとなく私たちの関係が伸展したことに気がついたらしい。その言葉で、美海さんもソフィーナさんも気がついたようだった。

「おや~?おやおや~?私も何があったかわかっちゃったなー。」

「はぁ…美海と大河だけでも甘ったるくて仕方ないっていうのに、また頭を抱える物が増えたのね…嬉しいやら悲しいやら…」

「まあまあ、ソフィーナちゃん、そんなこと言っちゃだめだよ!!せっかくのおめでたいシーンなんだよ?」

「まあ、わかってはいるけれど…。…レミエル、一応、私からもおめでとう、って言っておくわ。…それから二人とも、今のうちに言っておくけど、そこの生徒会長風紀委員長のバカップルだけは参考にしちゃだめよ。」

「えー、なんでなんでー?」

「美海、あなたねぇ…いろいろと見てられないからに決まってるでしょうが…。まったく、こっちがとれだけいつもいつも…。」

「えへへー…羨ましい?」

「違うわよ!!相変わらず何にもわかってないわね、あなたは!!」

「…うーん…そこまでなのかな…」

「大河まで…色ボケっていうのはもう、本当に厄介なものね…。」

美海さんと大河さんがのろける中で、頭を抱えるソフィーナさん。

「…ふふっ。」

思わず、笑みがこぼれる。

私は、この光景が、本当に好きだ。

何気ない日常ではあるけれど。

それが、本当に尊いものであると、今の私は知っている。

翔さんもそう思ったのか、私の右手を握る左手を、ぎゅっと握り直してくる。

私も、彼の手を握り直す。

そう。

今日は、いつもの日常に、新しい日常が増えた、そんな貴重な日。

私たちは、どちらからともなく向かい合う。

なにも言わなくとも、わかってしまう。

私たちは、どちらからともなく顔を近づけ合ってーーー


「ふにゃーーーーーー!!二人が自分たちの世界に入ろうとしてるーーー!!」


エルエルちゃんの叫び声にびっくりして、私たちは慌てて距離をとる。

…そういえば、みなさんがいたことを忘れていた。

…ミカエル様も、恋は盲目と言っていたけれど…こういうことなのだろうか。

「…もうだめね…あぁ…あの純粋なレミエルすらバカップルの仲間入りを…」

崩れ落ちるソフィーナさん。

「ねぇねぇ、大河君!!私たちも、ぎゅ~♪」

「あぁもう…相変わらず仕方ないんだから…。」

「こらー!!対抗しようとするな、このバカップル共ーーー!!」


美海さんと大河さんが抱きつきあっている。

それを見てソフィーナさんが叫んでいる。

フェルノさんとユラちゃんが、こちらを見て微笑んでいる。

エルエルちゃんが、いろいろとびっくりしている。

友達のいる世界。

温かな世界。

愛する人がいる世界。

私は、翔さんと一緒に生きていく。

この世界で。

彼の隣で。

いつまでも、いつまでも、共に空を飛ぶために。

もう一度翔さんの手を握りしめて。

私を見ているであろうミカエル様に聞いていただけるように。

私はそう思いながら、心の中で呟いたーーー

「Aile de Lien」 fin.

be continued “episode finale”



解説編 第5回


・クロスリンクと可能性解放

今回出てきたキーワード用語である「クロスリンク」は、元々カードゲームさんにおける固有名称能力のひとつで、「リンク成功時、さらにリンクを行うことのできる能力」というものなのですが、アニメさんのクライマックスでのことなどを考えて辻褄を合わせようとした結果、こういった設定になりましたです。

また、アニメさんでは、ただリンクレベルが上がるという描写でしかなかったものではあるのですが、こちらでは、内容を考えて、痛覚まで共有する、リンクの波が増幅、あるいは打ち消しあう可能性がある、という、一種のデメリットとなりうる設定を追加していますです。

また、そのデメリットにおいて、第4章と一緒になっている解説編第3回においてお話しした「ビヨンド」との相違点が、「ビヨンド」はあくまでもアルドラさんが受けるべきダメージの一部を、元々攻撃を受けたプログレスさん側に反射して痛みを軽減する、というもの(すなわち、受けるダメージはあくまでも一人ぶん)なのに対し、こちらは「お互いに同じだけのダメージを受ける」というものになりますです。

また、作中でレミエルちゃんと翔君が可能性解放状態(詳しくは第2章の末尾にある第1回解説編をご覧くださいです)に到達しただけでなく、いきなり美海ちゃんと大河君と同じだけのリンクレベルまで到達した、という描写があったのですが、クロスリンク成功時に必ず可能性解放状態まで至ることができるわけではなく、私の中ではアニメさんでの天音ちゃんたちは覚醒状態まで到達した、ということにしようかな、と思っていたという経緯があるということで、必ずしもクロスリンク成功=可能性解放状態という等式は成り立たない、ということをご理解くださいです。


後書き


Kokoroです。

今回の7章で完結を見た「Aile de Lien」なのですが、みなさん、お楽しみいただけたでしょうか?カードゲームさんのカードのお名前やフレーバーテキストでなんとなく見たことのある、と思う台詞や、カードゲームさんやアニメさん、アプリさんからのワンシーンやシステムから発想した設定がたくさんあるので、少しでもアンジュさんに触れたことのある方は、「なるほど!」と、思わずにやりとしていただけたのでは、と、自分では思っていますです。なおかつ、レミエルちゃんと翔君が先輩さんと後輩さんである、という、あまりなかったかもしれない(もしも他のどなたかの作品に似たような設定があったとしたらごめんなさいです…)ちょっと特殊なキャラクターさんの設定なども、おもしろいと思ってくださる方がいらっしゃったとしたら、すごく嬉しいところと思いますです。


実は、第1章からご覧になってくださっていたみなさんはご存じかもしれないのですが、このお話を書く前は、美海ちゃん視点のお話を書こうかな、と思っていたのです。それがなぜレミエルちゃんのお話に変わったのか、というと、それには理由がありますです。

それは、アプリさんにて、第3章『護世界の少女編』の情報が出始まっていたことなのです。物語を書こう、と思い立ったのが2018年の4月で、『Azur Valkyrie』さんのホームページさんに作品を上げてみないか、とお誘いを受けたのがそのちょうど一ヶ月後だったのですが、その頃にはもう様々なご意見が飛び交っていた時期で、なおかつその美海ちゃんのお話は、「私が最終章を書いたらどうなるのだろう?」という、かなり安直な考えから書いてみようと思い立ったことだったので、「今回のアプリさんで追加されるお話が、もしも最終章になりうるものだとしたら、もしも同じような内容だったとしたら」と考えてしまったという理由がありますです。書こうと思ったその時にはもうどんな内容にしようかな、という形はできていたのですが、公式さんが動いていらっしゃる以上、趣味で書かせていただいているだけの私ごときが迂闊に動くわけにはいかない、と思い立った結果、様子を見よう、という形に落ち着きましたです。

なので、元々この作品は謂わば場繋ぎのようなものだったのですが、「どうせなら、そのアプリさんのお話と私が考えるお話が同じような内容になるにせよ違う内容になるにせよ、そこにつながる、つながりうるお話を作りたい」という形に変わっていきましたです。結果的に、その判断がいい方向に向いたのかな、と思えるようになったので、とてもいいことなのかな、と思っていますです。そんなわけで、今後お話が続くかどうか、続くとしたらどこまで続けるかはわからないところではあるのですが、続けていく限り応援していただければ幸いなのです。


最後に、アンジュ・ヴィエルジュさんという作品を製作されて、そして私に出会わせてくださったメディアファクトリー様、アニメさんの製作に携わられたKADOKAWA様、SEGA様、アプリさんの方の製作元であるセガゲームス様、黎明期から魅力的な子達を描かれてきたイラストレーターさんの皆様、皆様のご尽力なくして、この作品の製作はありませんでしたです。拙い言葉になってしまって申し訳ございませんですが、この場をお借りして、深く御礼を申し上げますです。

また、『Azur Valkyrie』のみなさん、私をお誘いくださり、本当にありがとうございますです。書くのが早い上に何度も何度も読み直しては誤植の直しや追記をしてご迷惑をかけっぱなしな私なのですが、 今後もよろしくお願いしますです。

では、またお会いできる日を願って。


2018年8月22日 Kokoro (Twitter:@Kokoro41384259 )

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