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執筆者の写真Kokoro

『Aile de Lienー新たな絆と羽ばたく片翼ー Ange Vierge if episode vol.1“Ramiel ”』第4章

更新日:4月9日

前書き


Kokoroです。

…にゅー…更新していると、こちらに書かせていただく 内容がなかなか思いつかなくなってくるのですね…。それはいいとして、さて、前回のものを読んでいただけたらわかると思うのですが、今回はお待ちかね、ブルーミングバトルの場面になりますです。

…毎回ページ数が増えていっているような気もするのですが、今回は特に情報量が多い上に、頭に浮かんだ描写をそのまま文章にしようとした結果、前回よりもかなり多い分量になってしまいましたです…楽しかったのでまったく問題はないのですが。

…それよりも、みなさんに楽しんでいただけるのかな、いろんな臨場感や心の動きを味わっていただけるのかな、と思っていると、お腹がきゅー、となりますです…頑張ったので、ぜひお楽しみいただけると幸いなのです。


第4章「つながる心、取り合う手と手」


「…さて、全員準備はいい?」

私たちに確認を取ってくる大河さん。

あの後、全員でバトルルームへと移動してきた私たちは、今、お互いに正面から向かい合っていた。

私たちの目の前には、新入生の3組。

対する私たちは、天羽さんと私の2人だけ。

相手は新入生とはいえ、3対1。その上、相手の事前情報に関しては、私のことを知っているようである向こうはともかく、こちらはその情報はほぼないに等しく、それゆえに出方がわからない。極めつけは、天羽さんはひどい怪我をしている状態で、なおかつブルーミングバトルの経験も浅い。

普通に考えたら、あまりにも無謀。

それにも関わらず、天羽さんは、戦うことを選んだ。

ご自身のために。

大河さんや美海さんたちのために。

そしてーーー私のために。

彼は、私の力になりたいと言ってくれた。

…私は、彼の力になれるのだろうか。

天羽さんと出会うまで、大河さんとのリンクしか経験がなかった私が。

正直なところ、それはわからない。

…不安が、心を曇らせていく。

ひょっとしたら、私は彼を危険な土俵に引きずり出させてしまっただけなのではないか。

…ううん、今はそんなことはどうだっていい。

私は、天羽さんと一緒に戦うと決めたのだ。

彼も、私と一緒に戦うと言ってくれたのだ。

不安は拭うことはできない。

だがーーー彼を危険な目に遭わせる以上、私はそればかり考えてはいられない。

そんなことを知ってか知らずか、向こう側に立つリーダー格の男の子が、にやりと笑いながら天羽さんに言う。

「おい天羽、今のうちに言っておいてやるよ。やめるなら今だぜ。反省文とやらは実際面倒だが、お前が逃げるってんならそれで我慢してやるよ。」

私の隣で目を閉じていた天羽さんは、それを聞いて目を開ける。そして、まっすぐに彼を見つめて言った。

「ーーー僕は、もう自分の可能性を狭めないってーーー絶対に逃げないって決めたから。

先輩を巻き込んじゃったのに、僕だけ逃げるなんて嫌だから。

信頼してくれている先輩のために、僕自身の可能性のためにーーー僕は君たちと最後まで戦う。そしてーーー先輩に謝ってもらう。絶対にだーーー」


それを聞いて、大河さんが声を上げる。

「準備はいいみたいだね。じゃあみんな、お互いにリンクを繋いで。美海、全員のリンクの接続が確認できて、僕のルール説明が終わり次第、掛け声をお願いね。」

「はーい。」

…いよいよだ。

そう思っていると、天羽さんが私をしっかりと見つめてきた。


「レミエル先輩ーーー僕、頑張りますから。」


そんな一言。

その一言は、ずしりと重い。

彼の覚悟は、私には深くはわからない。

だが、彼がそう決めたのだから、私は、それに応えるだけ。

「はいーーー頑張りましょう。私に、力を貸してくださいーーー」


頷いた天羽さんの唇が、再び動いた。


「ーーーエクシード・リンク!!」


天羽さんが、私とリンクを繋ぐ。

私は、出会ってから幾度となく繰り返してきたように、それを全身で受けとめる。

温かな力が、流れ込んでくる。

私の左目から全身に流れだし、私を包みこむ、温かく強い意志を感じる力。

きっと、今、私の青い左目は、あのときのような眩い金色に変わっているのだろう。

私は、長杖を握る両手を自分の胸に当てて、エクシードを行使する。


(「ーーー私の中に宿る力ーーー私たちに力を貸してーーー」)

瞬間、左目と同じ眩い金色の光と共に、片翼しかないはずの私の背中に、対になるように大きな金色の翼が形作られる。

奇跡を起こすという特性を持つ、私のエクシードの力のひとつ。

αドライバーとのリンクによって、飛べないはずの私は、大空を高く高く、自由に飛ぶための翼を手にするーーー『白き翼の奇跡』。

しかしーーー

(「…やっぱり、重い…。」)

天羽さんに違和感を感じさせないようにと、何とか表情や声に出すことは堪えたが、やはりリンクレベルは低いまま。形作られた光の翼は、驚くほどに軽かった大河さんとのリンクと違い、はるかに重い。

「…よし、全員リンク完了だね。じゃあ、ルールを説明するよ。」

大河さんが、私たちを見渡して言った。

「まず、人数分けはさっきいった通り。バトルの方式はADAM方式、だけど、みんなが知ってるようなクリーンヒット判定での決着じゃなく、あくまでも実戦を意識したものだ。要するに、どちらかのアルドラが倒れるまで続く。それからーーー」

大河さんは、一瞬息をついて言う。

「アルドラのみんな、『ビヨンド』の使い方はわかっているね?目の前の機材がそれだけど、終了のブザーは最初に鳴らないように設定してあるから、それ以外の設定は、今自分達で自分の好みに設定してね。君たちに事前に渡したネクタイピンは、ビヨンドとリンクして君たちの受けたダメージやプログレスとのリンクの状態を検知するものだから。あんまり乱暴に扱って壊しちゃったりしないように。…よし、終わったみたいだね。美海、いつでもいいよ。」

各々の設定が完了したことを確認した大河さんが、美海さんに合図する。


「オッケー、じゃあいくよ…ブルーミングバトルーーー開始(スタート)!!」


美海さんが、掲げた右手を大きく振り下げる。

それと同時にーーー

「ーーーっ…!!」

リーダー格の彼とリンクしているらしいアンドロイドの女の子が、私との間合いを一瞬で詰めた。先ほど見た紫電をまとった拳が、私に向かって突き出される。咄嗟にそれを手にした長杖の柄で受け流したが、その拳は速く、そして重い。体勢が一瞬崩れたところを見て、翼を羽ばたかせて彼女の後ろへと飛んだ。ステラさんやカレンさんなど、類稀な速さを持っているプログレスとのブルーミングバトルによって目が慣れていたこと、その速さを捌くための経験を積んでいたことに救われたとも言える。

だがーーー

「…覚悟。」

向こうにはまだ後続が二人いる。私が飛んだ先にいた、冷静な声の男の子とリンクしている緑の世界の女の子が、手にした銃を私に向けて乱射してくる。マユカさんの「グリム・フォーゲル」とも、アゲハさんの「グリム・ベスティア」とも違う長大な銃。そこから撃ち出されたと同時に無数にばらけた弾丸は、まるで空を飛ぶ鳥を数で押し包むように、雨あられとなって私に襲いかかった。回避するのは間に合わない。私はやむを得ず、足を止めて前面に防壁を展開する。散弾はどうやら誘導制御ができるわけではないようで、防壁によって散弾は私には届かない。だがーーー

「ぐ、うっ…!!」

拳を杖で受けたこと、そして防壁によって直撃は避けたものの、その衝撃を緩和することは不可能だ。私の受けた衝撃のフィードバックによって、天羽さんが苦悶の表情を浮かべる。

(…私が直撃を受けたりしたら、天羽さんが…!!)

ただでさえ、先ほどのいざこざで満身創痍の天羽さんだ。しかも、今回はビヨンドによるクリーンヒット判定での決着ではない。大河さんは、この試合を始める前にこう言った。「どちらかが倒れるまで続く」。天羽さんがこの状態である以上、長い戦いになれば劣性になるのは明らかだ。

ならば、私には、選択肢はひとつしかない。

3人を相手に、可能な限り直撃を避けて、短期決戦を狙うこと。

だが、向こうもこちらが何を考えているのかは理解しているのだろう。体勢を立て直したらしいアンドロイドの女の子が、再び足を止めた私に向かって、先ほどとおそらくほぼ同じであろう速度で突っ込んでくる。私の経験もあるとはいえ、どうにか私が捌けているところから見て、おそらく彼らのリンクレベルは、私と天羽さんのリンクレベルとほぼ同じ。だが、彼らには数的有利がある。その上、伊達につるんでいるわけではないのだろう。彼女たちの連携(オルタネイト)は非常に巧みだ。私がどちらかを見なくてはならない時にも、必ず一歩下がったところにいるどちらかがきっちりと私を牽制し、絶対に一対一の状態を作り出すことを許さない。

私は紫電の拳と散弾の雨を、なんとか懐に飛び込まれないように、そして天羽さんの負担が最小限で済むように捌きつつ、最初の位置から動いていない、眼鏡の男の子とリンクしている黒の世界の女の子に一瞬目をやる。

ーーーこの二人は私の気を引くため、そして彼女の元へと私を追い込むための布石なのだろう。おそらく、彼女のキルゾーンへと追い込まれた瞬間に、一撃必殺の攻撃が飛んでくる。

だが、この二人を振り切って先にあちらを潰そうにも、大河さんとのリンクレベルな

らともかく、天羽さんとのリンクレベルで、私が少なくともアンドロイドの子の速度を上回った上で突破することは難しい。

ならばーーー

戦況分析から瞬時に判断した私は、二人の攻撃を捌きながら、彼女たちになるべく気づかれないようにさりげなく、あえて黒の世界の女の子の方へと、重い翼の舵を切る。

枚数不利がさらに跳ね上がるリスクは承知の上。

だが、彼女のエクシードが一撃必殺であるならば、これは私に対しても多少は有利に働くはず。

黒の世界のプログレスは、厳密にはエクシードとは別物ではあるものの、αドライバーとリンクすれば魔法の威力も破格になることから、主に自分の使うことのできる魔法も自分の持つ力のひとつとして、ブルーミングバトルにおいて行使する傾向にある。

ソフィーナさん曰く、一撃必殺を行える威力を持つ黒の世界の魔法は、それに比して前後の隙も大きく、また自分や味方に近いところで撃てば自分や味方もろとも巻き込んでしまう可能性があるものばかりらしい。そして、彼らは複数。一人は類稀な速度と重い拳、もう一人は放射範囲の広い散弾銃。いずれも、下手をすれば味方を巻き込んでしまいやすい特性を持ったものだ。常に一人を背にして戦うことで、誤射による脱落のリスクという新しい選択肢をこちらから用意することで、向こうはお互いに迂闊に攻撃をするわけにはいかなくなるはずーーー

私がそう思った時。


「先輩、よくあたしがキーマンだって気づいたねー。でもあまーい。」


黒の世界の女の子がそう言って笑った瞬間ーーー

轟音を響かせて、緑の世界の女の子が持っていた散弾銃が火を吹いた。

狙っていたのは、私ではない。

無数の散弾はーーー黒の世界の女の子へとすべて吸い込まれーーーそれを真正面からまともに受けた彼女は、衝撃に身をよじらせながら吹き飛ばされ、床に思い切り叩きつけられーーーピクリとも動かなくなった。

何が起こったのか、わからない。

あまりにも呆気ない、一人の脱落。

「どうして…!?」

私はそんなことしか言えない。天羽さんも同じようで、この光景を見て、何が起こったのかわからないと言いたげに佇んでいる。

だが、言えることはある。

あれはーーー意図的なものだった。

緑の世界の彼女の銃口は、明らかに、まっすぐに、今倒れている彼女を狙ったものだった。

「…おい、君はあの子のアルドラだろ!!何してるんだよ…パートナーが撃たれたんだよ!?なのになんで…!!」

天羽さんが、眼鏡の男の子に向かって叫ぶ。

眼鏡の男の子が、口を開いた。

「あーもう、相変わらず痛いよなぁ…。まあまあ、そう怒んないでよ。彼女の真骨頂はここからなんだからさ。」

真骨頂ーーー?

私が考え始めた時ーーー


目の前のアンドロイドの女の子が、私の目から消える。


えっ…?

私が戸惑いを浮かべた瞬間ーーー先ほどまでかなりの間があったはずの彼女との間合いが、拳一つ分にまで狭まっていた。彼女の拳が、私の鳩尾に向かって一気に突き出される。

「あぅ…っ…!!」

防壁を展開する暇も避ける暇もなく、懐に彼女の侵入を許してしまった私は、左肩に重い拳を叩き込まれ、その衝撃に抗うこともできずに吹き飛ばされた。

「ぐっ…ああああっ…!!」

ついに私が受けてしまった攻撃による激痛に、天羽さんがたまらず声を上げる。咄嗟に体を捻って鳩尾への直撃を避け、重い翼でなんとか体勢を立て直すことには成功したが、αフィールドに守られている私と違い、リンクしている天羽さんには衝撃やダメージがもろにフィードバックする。左腕がだらんとぶら下がってしまったところを見ると、ダメージの種別としては骨折か、あるいは脱臼のような判定になっているのだろう。

そんなーーーどうして!?

彼らの攻撃は確かに速く、重く、そして正確だ。それはさきほどのやりとりで十分に理解している。だが、確かに私は、数々のマイナス条件から苦戦を強いられたとはいえ、なんとか捌くことができていた。なのにーーー今の攻撃を見るに、それは通用しない。速さも、重さも、先ほどとは段違い。それはどうやら緑の世界の子も同じようだった。おそらく、白の世界の彼女ならこの程度造作もなく避けるだろうという判断なのだろう。射線上に味方がいようがいまいが関係なく、ためらいなく立て続けに引かれる引き金。そこから撃ち出される散弾の弾幕は、先ほどとは比べ物にならないくらいに速く、そして分厚い。しかし、散弾を防ぐだけに集中しようとすれば、あの縮地での急接近から撃ち出される神速の拳が、下手をすれば今度は死角から襲いかかってくるだろう。すべてを回避しきることが不可能とわかった私には、自分の全周囲を防御して何とか耐えきり、活路を見出す以外に方法はない。隙を狙って何とか二人の猛攻をやり過ごし、全周囲の防壁を展開することができたものの、そこに突き刺さる拳や弾幕も、少しずつ密度が増していっている。

「うぅ…っ…!!」

気を抜けば一気に突破される可能性もある中、私は苦悶の表情を浮かべつつ必死に耐えながら、周りをちらっと見渡す。相手の一人がいなくなったのに、それを軽く上回る力を、この目の前の二人は発揮している。相手のαドライバーの3人は、二人に明らかに押され始めた私を見て、にやりと笑みを浮かべーーー


ーーー3人…?

私は、違和感にようやく気がついた。

先ほどから笑みを崩さない、眼鏡の彼。

彼はーーーどうしてまだあの場に立っている。

ビヨンドによって撃たれた痛みを軽減していることは間違いないだろう。だが、パートナーの彼女は、倒れ伏したまま。

なのにーーーどうして、彼はまだあの場に立っている…!?


「まさかーーーリンクはまだ生きているの…!?」


「ご名答ですよ、先輩。」

不気味な笑顔を崩さない彼に代わって、リーダー格の男の子が私に向かって言う。

「俺たちの包囲網を逆用しようと考えたこと…それはさすがですよ。おそらくあいつが必殺のキーマンだと思ったがゆえの動きだったんでしょうね。だが、それは半分正解、半分不正解だ。こいつの真骨頂は、誰かにやられた時に発揮されるんですよ。」

やられた時ーーー?

再び、眼鏡の彼が口を開いた。

「あいつははあんなテンションでも、黒の世界の死霊術師(ネクロマンサー)の家系の生まれらしくてですね。だが、あいつはそんな家に生まれながら、降霊術も悪霊の使役もできなかったんですって。できることは、自分が仮死状態になることと、その状態でアルドラとリンクし、自分を操り、それでもって誰かに乗り移って自分の力を与えるだけ。そして今、あいつはあんたの目の前の二人に乗り移って、その力を増幅させているんですよ。」

ーーー力を分け与え、増幅させる。

私には、似たような力にひとつ覚えがあった。

元はαドライバーであり、その後プログレスとなったという異例の経歴を持つ、エルエルちゃんや天羽さん、そしてこの人たちと同じ学年にいる青の世界出身のプログレスーーー天音さんのエクシードーーー「天使の光輪(エンジェル・ハイロゥ)」の名を持つエクシードの特性のひとつに少し似ているかもしれない。

だが、天音さんのエクシードとは大きく違うところがある。

それは、トリガーの有無。

彼女の場合、あえて倒されることによって、その真価を発揮するのだという。自身一人でも十分戦える天音さんの下位互換ともいえるかもしれないが、この3人がセットであり、なおかつ前衛の二人があれだけの連携を取れることを考えると、そのデメリットもさして問題にはならず、それでいて今回のように、出たところでの勝負において初見殺しのブラフとしてーーーむしろメリットに変えて使うこともできる。

…やられた…!!

私はようやく、自身の読みの甘さ、そしてそれによる失策を行ってしまったことを知った。

彼女たちの攻撃はさらに鋭さを増しーーーやがて、度重なる攻撃に耐えきれなくなった防壁が、まるで落としたガラスや陶器が割れるような音を立てて、木っ端微塵に砕け散る。

ーーーいけないーーー!!

私の動揺を見逃すまいと、緑の世界の女の子の持つ銃が立て続けに火を吹き、撃ち出された無数の弾丸が、ついに防ぐ手段をなくした私に向かって一気に襲いかかった。

「うぅっ…ぐ…うぅっ…あぁぁぁぁぁぁっ…!!」

無数の凄まじい衝撃が、私の顔を、腕を、胴を、足を、翼を容赦なく打ち付け、私は歯を食いしばって何とかその衝撃に耐える。だがーーー

「ーーーぐ…うぅ…がっ…ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!!」

立て続けのダメージのフィードバックに、天羽さんがついに苦痛の叫びを上げる。当然だ。直接的に怪我をするわけではないとはいえ、今、彼の感覚においては、無数の弾丸が体へと一気に突き立てられ、それらによって自分の皮膚や体組織が立て続けに食い破られているというのだから。

だが、私にも為す術はない。ようやく散弾の弾幕が止んだと思った時ーーー


「ーーーコレデ最後デス。オ覚悟ヲ。」


散弾の掃射が消えたのは、これが目的だったから。

そう私が気づいた時には、アンドロイドの女の子の拳が、今度こそ私の鳩尾に叩き込

まれた瞬間だった。

「ーーーご、ふっ…!!」

天羽さんが苦しそうな声を出して前のめりになる。何とか倒れることは堪えたようだったが、攻撃を受けた私の方は、受け身を取ることもできずに吹き飛ばされ、バトルルームの床に思いきり叩きつけられた。

「ーーー先輩、わかりました?そいつのポンコツっぷり。」

リーダー格の男の子が、杖に寄りかかるような形でなんとか起き上がった私に向かって言った。

「…使えないやつは使えないやつ、はっきりわかる。」

「こんな奴が専属じゃ、エースの先輩も形無しですよねー。」

冷静な男の子と眼鏡の男の子が、それに被せるように言う。それを聞いたリーダー格の男の子が、さらにとどめを刺すように言った。


「わかったでしょ?アルドラが強くなきゃ、どんなに強いと言われてるプログレスだって、ただのプログレスでしかない。やる気があろうがなかろうが、そんなことは関係ない。痛い思いをするのは俺たち。だからアルドラはプログレスに対してひとつ上の立場にいるべきなんだよ。平等だの絆の強さだのなんだの、そんなものはたかが机上の空論。あんたのアルドラはーーーそんな理想しか言うことができない、実力もない、あんたにとっても俺たちにとっても、ましてやこの青蘭学園にとっても、そんなことも考えられないこいつはーーーただのお荷物でしかないんだよ!!」


「ーーーーーーっ…!!」

それを聞いた私は、何も言うことができない。

これが、見まごうことのない現実だったから。

現に、私と天羽さんは今、彼らによって満身創痍の状態まで追い込まれている。

今、目の前で私を高みから見下ろしている3人は、こう言った。

αドライバーが強くなければ、プログレスはただのプログレスだと。

考えてみる。

私は、戦っている最中に何を考えていた?

できるだけ攻撃を受けないように。

だが、結局私は攻撃を受け、天羽さんを苦しめている。

その時ーーー何を考えた。


そうだーーー

私はーーー大河さんとのリンクを考えていた。

大河さんとのリンクならーーーそう考えていた。

それは、彼らが言っていることそのもの。

最高のαドライバーのリンクを受けていた私がエースと呼んでいただける所以となったもの。

「私ーーー私はーーー」

私は、天羽さんの力になれているのか、疑問だった。

でも、これでわかってしまった。

これもまた、自己満足に過ぎなかったのかもしれない。

今、胸の中にある痛みは、あの時と同じーーー雨が降っていたあの日、図書館で味わった心の痛みと同じ。

また、味わってしまった。

繰り返してしまった。

後悔してもしてもしきれないこの気持ち。

そして、今回傷つけたのは自分自身だけじゃない。

天羽さん。

私は、彼にあるかどうかもわからない希望を持たせてしまった。

それを持たせた上で、現実を嫌が応にも直視せざるを得なくなる道を選ばせてしまった。

私のせいだ。

私のせいだーーー!!

「…ごめんなさい…天羽さん…ごめんなさい…!!」

俯く私の目から、後悔の念から、そして申し訳なさから来る涙がとめどなく溢れる。

誰かーーー

誰でもいい。

私を罰してください。

悪い子だって言ってください。

私はーーー彼に許されないことをしてしまったのだからーーー


「ーーー先…輩…泣かないで…。」


はっとして、私は後ろを振り返る。

天羽さんが、苦しそうな息遣いで私に言った。

「僕は…大丈夫…大丈夫…ですから…だから、泣かないで…

ごめんなさい…僕、先輩のアルドラなのに…先輩の力にならないといけないのに…

でもーーーだからこそ…僕は…倒れるわけにはいかない…

先輩のアルドラだから…先輩が必ず勝つって信じているからーーーそのために…先輩が絶対に負けないために、痛みを背負うって…一緒に戦うって、決めたからーーー

だからーーー僕は倒れない…倒れたくない…倒れるわけにはいかない…

こんな痛み、へっちゃらですからーーー

レミエル先輩がずっと持っていた心の痛みと比べれば、こんなの、全然へっちゃらですからーーー

だから…先輩、負けないでーーー泣かないでーーー!!」


「ーーー天羽君、そうだ、それでいいんだ!!」


私たちを見守っていた大河さんが、私も知らないような大声で叫んだ。

「レミエルーーー君、多分僕とのリンクのことを考えて戦ってたでしょ?

確かに感覚は違うかもしれない…最初に僕みたいな、言っちゃえば反則的なアルドラなんかとリンクしちゃって、それをずっと続けてきて、不安だったんだよね?

…でも、今君にその翼を与えているのは彼だーーー飛ぶための力を与えているのは彼だ!!僕じゃない!!

彼は君が選んだアルドラだーーー確かに、言い出したのは僕かもしれない…でも、泣いてる彼を見つけて、力になりたいって言ったのは君の意思だ…君が自分で決めたことだ!!彼はまだ倒れていない…そんなにボロボロになっても、君に応えようとしている…君が彼を助けたみたいに、君の力になろうとしている…助けになろうとしているんだよ…!!」

大河さんは、天羽さんの方をちらっと見て、それからまた私に向かって叫んだ。


「彼の力を疑っちゃダメだ、レミエルーーー

僕じゃない、彼に向かって手を伸ばすんだ!!

彼は君を信じてるーーー必ず勝つって信じてる…。だから耐えられる…立っていられる!!


それほどまでに君を信じてくれているパートナーの力をーーー君自身が選んだアルドラの力を、君が信じてあげなくてどうする!?」


ーーーーーー。

「風渡先輩、あんた確か手は出さないって言ってませんでしたかー?」

「そうだよ、手は出さないと言った。だから僕は手の代わりに口を出したんでしょ?」

大河さんとリーダー格の男の子が何やら会話をしているようだが、私にはそれをきく余裕などなかった。

大河さんの言葉が、心にすっと入ってくる。

そうだ。

私は、彼の力になりたいと、あの時思った。

心から、そう思った。

はじめて出会ったときも。

私とだけリンクを繋ぐことができることがわかったときも。

それは、ずっと変わっていない、私の本心。

彼は倒れない。

私と共に戦うために。

私と共に、この戦いに勝つために。

どんなに痛くても、苦しくても、彼は絶対に倒れない。

それは、私のαドライバーとしての覚悟。

先ほど、リーダー格の男の子の拳をまともに受けて倒れながらも、強い意思をもって叫んだ、天羽さんのあの言葉。


「私たちプログレスが思いきり戦えるように、無事に帰ってくるように、だから彼らαドライバーがいる。私たちを信じてくれる。」


彼は今、それを自分で体現しようとしている。

ーーーああ、そうだ。

天羽さんを信頼することをやめていたのは、私の方だ。

確かに、大河さんとのリンクは、心地よかった。

私に、最初に飛ぶための翼をくれたのが大河さんだったから。

心を失いかけていた私に、安らぎをくれた人だったから。

でもーーーあの時、私は彼の手を離れた。

天羽さんの力になりたかったから。

いつまでも、大河さんと美海さんの間に入って邪魔をしてしまうのが嫌だったから。

そしてーーー一番の理由はーーー大河さんに依存しすぎていた私だったけれど、その状態からまた一歩大きくなりたかったから。

今、私は天羽さんとリンクによって繋がっている。

彼は、私を信頼してくれている。勝つことを信じてくれている。

どんなに痛い思いをしても、どんなに苦しくても。


ならばーーー私はそれに応えるだけ。

彼が信頼してくれるように、私も彼を信頼するだけ。

彼はーーー絶対に倒れない。

私と一緒に戦っている。

力を貸してくださっている。

だから、私も一緒に戦う。

彼に勝利を届けるために。。

彼との絆をーーーもっと深くーーーもっともっと深くーーー


かちり、と、呆気なくピースがはまる。

その瞬間ーーー


「ーーーっ!?」

ぶわっ、と、私の体全体から、大きな津波のように力が溢れだした。それと同時に、 先ほど散弾によってひどく傷ついた翼が、眩い金色を取り戻す。

私は、驚く天羽さんに向かって振り向いてーーー笑顔を浮かべて言った。


「天羽さんーーーありがとうございます。

私を信じてくださって、ありがとうございます。

だからーーー今度は私があなたを信じます。

最後まで見ていてくださいーーー私の戦いを。

あなたが信じてくれた私の力を。あなたがくれた翼の羽ばたきを。」


それを見た向こうのプログレス二人が動く。

アンドロイドの女の子が、再び神速の拳を撃ち込む。だがーーー

「ーーーっ!?」

彼女が驚くのも無理はない。彼女の動きは、後ろを向いていた私に対しては完全に不意討ちだった。それにも関わらず、私は振り向くことすらせず、なおかつ彼女の速度をさらに上回る速度で、背中の側へと回り込んでいたのだから。

アンドロイドの女の子が気づいた時にはすでに、私の手の中の長杖が、高く振り上げられている。彼女は咄嗟に頭上で腕を十字にしてそれを受け止めるが、私は杖と腕がぶつかったところを支点にして上方向に一回転しつつ、両翼を羽ばたかせてそのまま一気に加速する。アンドロイドの女の子が何が起こっているのかわからない、杖を受け止めるので精一杯というような仕草を見せる間に、再び彼女の背中へと回り込んだ私は、杖を支えるのを左手に任せ、離した右手に金色の光を瞬かせて、エクシードの発動のため の詠唱を行う。


「ーーー迷いなく、まっすぐにーーー貫いて、『奔る光の奇跡』ーーー」


私の右手から放たれた光弾が、至近距離からアンドロイドの女の子に向かって一直に襲いかかる。速さに優れた彼女でも、それを上回る速度で懐に飛び込まれた上、至近距離で放たれた光弾を回避することは不可能。光弾をまともに受けた彼女は、着弾による爆発で吹き飛び、先ほどの私と同じように、床へと叩きつけられた。

「ぐぁ…っ!!」

リーダー格の男の子が苦しそうな声を出す間に、

「このっ…!!」

「駆逐ーーー!!」

冷静な男の子と緑の世界の女の子の焦っているような声が重なり、再び私に対して無数の弾丸が降り注ぐ。

だがーーー私は避けない。防がない。そんなことをする必要もない。

ただ、先ほどとはまったく違う、驚くほどに軽い翼を、一度大きく羽ばたかせ、風を生み出しただけ。

だが、それだけで、無数のエクシードで作られた弾丸は勢いを失い、ひとつも私に届くことなく霧散していく 。

一人一人では無理だと悟ったのか、再び立ち上がったアンドロイドの女の子が、緑の世界の女の子と共に、私を左右から挟み込むような形で突っ込んできた。先ほど見せられた、相変わらず、私から見ても見事な連携。

私は今度は全周を守る防壁を以て、それを真正面から迎え撃つ。

散弾と拳が、先ほどと同じように、次々に防壁へと叩きつけられる。だが、先ほどとは違って、今、私を守る防壁は、力を貸してくださっている天羽さんの意志に呼応するかのように頑強なもの。揺らぐことなく彼女たちの攻撃をことごとく防ぎ、私にひとつの攻撃も通すことはない。

私は再び、エクシードを使うための詠唱を開始する。

「優しく、そして鋭くーーー切り裂いて、『白き刃の奇跡』ーーー」

防壁を解除した瞬間ーーーまた一度羽ばたいた両翼が、何本もの鋭い剣となって、彼女たちに向かって無数の斬撃を繰り出す。避けることも防ぐこともできず、その斬撃によって切り裂かれる他にない。

「うっ…うわぁぁぁぁぁぁっ…!!」


無数の斬撃の痛みに耐えられなくなったのだろう。冷静なはずのその男の子がついに倒れこみ、緑の世界の子のαフィールドが消える。残りは二人。

「ーーーふ…ふざけるな…ふざけるんじゃねぇ…!!こんな…こんなやつに…出来損ないなんかにーーー!!」

おそらく、ダメージのフィードバックの他に脳震盪も起こしているのだろう。リーダー格の男の子が、ふらふらになりながらさらにリンクの接続を強めるべく力を込め、それを見てアンドロイドの女の子が一気にこちらへと飛び出してくる。おそらく今日見た中で一番の速さ。だがーーー今の私には、それでも遅い。

避けるか、防ぐか、迎え撃つか。

それを私が考えた瞬間ーーー


ーーーばきっ…!!


私にも、何が起こったのか一瞬わからなかった。

目の前のアンドロイドの女の子の腕がーーー足がーーー私に向かって伸ばされた瞬間、金属がねじ切れるような嫌な音を立てて吹き飛び、床へと落下していく。

「…ボディ負荷、レッドゾーン、コレ以上ノ戦闘ハ危険ト判断。強制リンク解除、スリープモードニ移行シマス…マスター…ゴメンナ…サイ…。」

私に肉薄していた彼女の体が、自由落下を始める。

ーーーいけない!!

私は翼を羽ばたかせて、一気に彼女の体を抱き止める。そのまま私は、彼女を抱えたまま床に降り立った。


「ーーー勝負あり、だね。最後に残ってるキミたちはどうする?まだ戦う?」

美海さんが、黒の世界の子と眼鏡の男の子に向かって言う。

「…いえ、やめときます、そもそもそいつは自分の憑依と力を与える以外には取り柄がない。戦ってもこれじゃどうせ勝てないですからね…。」

「そういうことー。あたしも降参ー。」

二人が両手を上げて降参を宣言すると同時に、力が抜けたのか、それとも痛みが限界に達したのか、天羽さんがついに崩れ落ちる。それを大河さんが支える間に、

「ふ…ふざけるな!!俺はまだ立っている…負けてない…負けてないんだ!!おいお前…何寝てやがる…さっさと起きろ!!マスターの命令だ!!早くしろ!!」


「そんなことを言ってる場合じゃないだろ!!」

天羽さんを床に寝かせた大河さんが、彼を一喝した。

大河さんはまた腕章を外す。

「レイナ!!今研究棟にいるね?大至急バトルルームまで!!それから、ミハイルは近くにいる?…よし、じゃあ一緒に連れてきて!!後は、アルドラの応急処置ができるプログレス…ナナは今日は一日メンテナンスで動けないから…そうか、シノンか!!シノン、そこにいるんだよね?今すぐレイナとミハイルと一緒に来て!!早く!!」

それだけ言って、大河さんは通話を切る。

間もなく、バトルルームにミハイルさんとレイナさん、そしてシノンさんがやって来た。

「ーーーこれは…大河さん、一体何があったんですの…!?」

シノンさんが、私が抱き抱えているアンドロイドの女の子を見て、珍しい驚愕の表情を浮かべる。

「ーーーいや、シノン、連絡があったときは何かと思ったが…これを見せられたら、何があったのか、そしてなぜ私が必要だったのかはある程度想像がつく。レイナ、あのアンドロイドのことは、君に任せてもいいか?シノン、君はそのアンドロイドをレイナの研究室に搬送した後、怪我をしているプログレスやアルドラの手当てを頼む。」

…怪我…プログレスが?プログレスはαフィールドに守られているはず。なのに、どうして?

「りょ、了解なのデス!!シノン、運ぶのを手伝うのデス!!」

「了解ですの!!アルドラのみなさん、少しだけ待っていてほしいんですの!!」

アンドロイドの女の子をシノンさんの緊急搬送用のユニットに乗せたレイナさんが、シノンさんと一緒にバトルルームを飛び出すのと同時に、ミハイルさんが口を開く。

「…さて、どうして大河が私まで呼びつけたのかだが…察するに、ビヨンドに関することだな?」

「うん、察しが早くて助かるよ。僕ではそうなのかな、って思うだけで、説明しにくい部分でもあるからね。」

大河さんが言うと、ミハイルさんはリーダー格の男の子に向かって言う。

「…君たちは、ブルーミングバトルでビヨンドを使っていた、そして彼女ーーーあのアンドロイドが、そのバトル中に空中分解、あるいはオーバーヒートを起こした…間違いないな?」

「………。」

「うん、間違いない。逐一全員のリンクレベルの推移をモニターしてたけど、痛覚遮断(リジェクト)がきちんと働いていたみたいだったからね。」

答えないリーダー格の男の子と、彼に代わってそれを代弁する大河さん。

それを聞いて、ミハイルさんが口を開く。

「ビヨンドは、君たちの知っての通り、プログレスの痛覚を一手に引き受けなくてはならないαドライバーの負担軽減のために開発したシステムだ。限界を超過したダメージを受けたとシステムが判断した場合、強制的にリンクレベルを低下させることで、αドライバーへの必要以上の痛覚を遮断(リジェクト)し、負担を軽減する。…だが、一応、落とすリンクレベルの設定には注意するように、ということをマニュアルに乗せておいたが…それだけの説明では足りなかったようだな。…実は、このシステムには、少々厄介な点がある。それはーーー」

ミハイルさんは、一息置いた後、言いにくそうに続ける。

「痛覚の遮断ーーーそれがどういうメカニズムで行われているか、君たちは知っているか?それは、アルドラの負担の一部をそのままプログレスのダメージとして扱うことで、アルドラの負担する痛覚の一部を軽減する、というシステムなのだよ。ゆえに、使う人間はかなり一部に限られ、それを前提としたシステムになっている。君たちのような、痛みに慣れておらず、またプログレスとのリンクレベルもまだそれほど高いわけではない新入生か、お互いに痛みを分かち合いたいと考える連中か…それとも、どちらか一方を蔑ろにしようとする輩か…。君たちは、どうやら後者だったみたいだがな。」

…私は、そんなこと知らなかった。

ミハイルさんの言葉は続いている。

「当然、君たちからのダメージは彼女たちに跳ね返り、ついでに言えば、限界を迎えた状態で強くリンクを繋ごうとしたのだろうな。ただでさえリンクレベルが強制的に落とされている中で、それに抗ってリンクを繋ごうとすればーーー」

「…ただでさえ限界を迎えているはずのプログレスは、必ずシステムに追いつかなくなる、だね。」

美海さんが、ミハイルさんの言葉から繋げて言う。

「その通りだ。なおかつ、彼女はアンドロイド、それもかなり粗い作り方をされているな。ゆえに痛覚はないに等しく、それゆえに自分の限界もまったく知らなかったのだろう。そちらの二人はプログレスであってもきちんと人間だから、心の深いところにある理性と呼ばれるものである程度の蓋ができて、全力と言う名の8割の力だったのだろうが、彼女だけはそうはいかなかった。ゆえに、痛みも限界も超越した結果、彼女は空中分解を起こしてしまうまでに至ってしまった…それが真相だろうな。」

ミハイルさんの言葉に、リーダー格の男の子が、天羽さんに指を突きつけて怒声を叩きつける。

「…ふ…ふざけるな…そんな欠陥品を俺たちに使わせやがって!!それがなければ俺たちは勝っていた…勝っていたんだよ!!どうせそこの会長と風紀委員長のコンビが、こいつらに有利になるように細工したんだろ!!そうだ、そうに決まってる!!」

「…そう言いたくなる気持ちはわかるけどね。」

大河さんが、彼に冷静に言う。

「結論から言おうか。僕や美海はなにもしてない。ついでに言えば、クラリスやアクエリアに頼んだりもしていない。ひとつ言えるのはーーー天羽君の覚悟が君たちのそれを遥かに上回っていた、っていうことだけだよ。」

大河さんはそう言って、手に持っていたパソコンから出力したらしい、折れ線や数字が何本も入った書面を、彼に向かって突きつけた。

「…よく見てごらんよ、天羽君のリンクの数字。赤い線がビヨンドで痛覚遮断が発生していたはずのリンクレベルの推移を表したグラフ、黒い線が実際のリンクレベルの推移を表したグラフだ。」

それを見た私は、ひとつのことに気づく。

ある時間を境に、爆発的にリンクレベルがーーーそれこそ、レベル4後半の数字まで跳ねあがっている。

だが、見るべきところはそこではない。


「ーーーリンクの数字がーーーどこを見ても落ちていない…?」


大河さんは、「そうだよ。」と答え、リーダー格の男の子に向き直る。

「これを見たら、もうわかるよね?


彼はーーー天羽君は、ビヨンドのダメージ負荷軽減をゼロにしていたーーーそんな便利な装置があるのに、それを使ってすらいなかったんだよ。


レミエルが君たちから受けた痛みーーーそのすべてを余すところなく受け入れて、痛みを軽減しているはずの…パートナーに一部を押し付けて楽をしている君たちよりも、痛いだろうに、苦しいだろうに、それでも、レミエルが勝つことを信じたーーー一緒に戦っているパートナーを信じたーーーそのために、絶対に自分が先に倒れたりするもんか…自分がレミエルの痛みを全部受け入れるから、レミエルは、自分のことは気にせず、思いきり戦ってほしいーーー彼は、そう思っていたんだろうね。


君たちがどれだけ苦労してきたのかは僕にはわからない。それでどれだけ悔しい思いをしてきたのかはわからない。

だけどーーーそれでも、痛い思いをしてるとか何とか言って楽をしたはずの君たちを、

現実を知っているはずの君たちを、彼は見事に上回って見せた。

君たちはーーー君たちが馬鹿にした力ーーー

天羽君のアルドラとしての力と覚悟にーーー負けてしまったんだよ。」


大河さんの言葉を受けて、リーダー格の男の子がついに何も言わずに崩れ落ちる。

私も、そんなことは気がつかなかった。

必死だったからということもある。

だがーーーそれ以上に、彼とのリンクが、本当に心地よかったから。

熱く燃え上がり、しかし時には温かく包み込んでくれる。大河さんとのリンクとも似ているけれど、細部はまったく違う、そんなリンク。

私にはわかる。

天羽さんとのリンクで喜んでいたのはーーー私だけではない。


私の中に転生したという、私の恩人、ガブリエラ様の前任。

導きの大天使ーーーミカエル様。

彼なのか、彼女なのか、それは私にはわからない。

だがーーーその人は、私に対してこう言っているのではないかと思った。


ーーー「あなたは、信じられる人にーーー信じてくれる人に、

ようやく出逢うことができたのですね」とーーー


解説編 第三回


学内ブルーミングバトルの種別形式とルール

ブルーミングバトルの形式は、基本的にはアプリさんのエクシーズ及びブルーミングバトルに関係するイベントさんのお名前やその形式を参考にさせていただいていますです。

今のところお話には出てきていないのですが、種別としては、下記のようになっている、という設定にしていますです。

・「ADAM形式(プログレスさん及びアルドラさんの人数制限なしの一本勝負。アプリさんで言う通常のエクシーズ及びADAM戦と呼ばれているものと考えてくださいです。)」

・「AAA形式(1対1の一本勝負。アプリさんでもトーナメントの形式にはなっているのですが、予選のことはあまり考えていませんです。ご了承くださいです。)」

・「EVE形式(参加希望型の多人数ブロック総当たり及び勝ち残りトーナメント。予め参加したい人が集まってチームを組み、予選でブロック別に総当たりを行い、勝ち点の多いチームが決勝トーナメント進出、という、アプリさんそのままの方式なのです。)」

・「ARC形式(各クラス選抜チームによる多人数総当たり及び勝ち残りトーナメント。元々アプリさんではこういった形式ではなく、手持ちのプログレスさんから3つのチームを選抜して、なおかつサポートのプログレスさんは緑の世界の子に限る、という設定になっているのですが、「3つのチームを選抜する」ということで、一教室から3チームを選抜する、というような特殊な設定にしていますです。)」

また、第4章ではデスマッチ方式のような形でルールを説明していたのですが、第1章の冒頭でのブルーミングバトルは、アルドラさん及びプログレスさんの負担を可能な限り減らすという目的で、本文中及び下記にある痛覚負担軽減システム『ビヨンド』における痛覚遮断をしてもなお余りある攻撃を入れられたとシステムが検知した場合に終了の合図として音が鳴る、という設定になっていますです。


「痛覚負担軽減システム『ビヨンド』」

今回、作中で出てきた「痛覚負担軽減システム『ビヨンド』」ですが、元々原作に詳細な設定はなく、アニメさんで出てきたαドライバーさん用のトレーニングのための機材が出てくる描写の部分にあった『ダメージ負荷』という概念、及びカードゲームさんのルールの中に出てくる用語のひとつから派生した設定になっていますです。

元々、『ビヨンド』という言葉は、カードゲームさんの第8章において追加された能力名で、「デッキのリメイクなどによってフレームカードが一枚以上除外されていることでされていることで発揮される効果」を指しているのですが、ここでは、αドライバーさんがリンク中に受けてしまうフィードバックのダメージを軽減するためのシステムとして設定していますです。

アンジュさんのカードゲームさんには、ライブラリアウト、すなわちデッキ切れによる負けという概念が基本的にはなく、もしもデッキがなくなった場合には、捨札から、4枚のスタートカードを含めてデッキの中に全部で20枚ある「フレームカード」を一枚除外してシャッフルした上で、もう一度デッキとして作り直して再開する、というルール上の処理(これを『リメイク』と呼びますです)があり、リメイクでのフレームカードの除外という概念がリンクレベルの一瞬の低下、という認識で考えていただければと思いますです。

また、このフレームカードというものは、ダメージを受けてしまった際、そのダメージの一部をなかったことにするためのカードでもあり(カードゲームさんにおけるそのルール上の処理のことを『リジェクト』と呼んでおり、作中におけるこのシステムでダメージを軽減することを指す『痛覚遮断(リジェクト)』という言葉はここから来ていますです)、そのことも加味して、このシステムの設定が生まれたという経緯がありますです。

結論としては、

ダメージを軽減する役割→リジェクトの処理

リンクのレベルを一瞬落とす→リメイクの処理

という覚えかたで覚えていただければいいのかな、と思いますです。

なお、上述のブルーミングバトル終了の合図は、本編にあったように、事前の設定によって鳴らないようにすることもでき、痛覚遮断のシステムを使用するかしないかはアルドラさん自身が選択できるという設定にもなっていますです。そのため、例えば痛覚遮断のシステムを使用せずに終了の合図が鳴る設定にした場合は、痛覚の遮断は行われないのですが、それがアルドラさんにとって危険な攻撃だとシステムが検知した場合は終了の合図を鳴らす、ということもできるようになっていますです。

プログレス同士の連携「オルタネイト」について

「オルタネイト」という単語が出てくるところがあったのですが、こちらは前述のビヨンドと同じカードゲームさんの中での効果を基にしたものになりますです。

カードゲームさんでは、「元々出ていたプログレスカードからこの効果を持っているプログレスカードが手札からシフト(元々出ていたプログレスカードのレベルの分だけ、手札からプログレスカードを出すときのコストを軽減するというルール)で登場する時、元々出ていたプログレスカードを手札に戻してもよい」というテキストが書かれています

普通、プログレスカードがある場所に新しくプログレスカードを出したいときは、元々いたプログレスカードは捨札へと置かれるのですが、この効果によって元のカードを手札に加えることで、それを返しのターンの防御札として使える、という、攻防一体の効果として設定されていますです。

また、この効果はアンジュさんの設定の中でも、珍しくカードゲームさんからきちんと設定が作られているものでもありますです。そちらでは主に「ブルーミングバトル中の前後衛の入れ替わりの技術」というような設定があるようで、こちらでもそれを踏襲させていただいていますです。


4章 終


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